大正時代の東京、描かれる風俗に心ときめく。
モダンと江戸の名残りの中にあるそこは、西洋建築と日本家屋が混じり合い、東京湾では鉄の船と帆掛け船がすれ違う。土筆のようなビルヂング。空はまだまだ広く、大きく、頭の上にひらけている。
桐箪笥から引き出した着物や帯から、すうと漂う、樟脳の匂い。
寺の離れの狭い和室で、画家の卵は西洋絵画を描き、ダージリンの茶を淹れる。
元華族のヒロインは恋も知らぬまますでに身売りのような結婚を控えており、気鬱を抱えて、質屋に向かう。
巴里に行って美術を学びたい。
まだ画壇に認められないうちから、青年は熱い夢を抱いている。
時代は藤田嗣治が巴里にアトリエを構えたころだ。エコール・ド・パリ、モンパルナスの赤い風車。
大正モダンの帝都と地続きのような気がするのは、双方の都市がまだ近代化の途上であり、うす翠の風が吹く中に若者が夢を抱いて続々と集まっていたからだろうか。
私を描いてください。
女は髪を切る。
静かな描写が積み上げていくものは、日陰に落ちている青いおはじきを拾い集めて干菓子の函におさめるような、誰にも云えない秘密を帯びている。