2135年、異能が当たり前になった世界でも野球は野球という設定の立て方が小気味いい。異能制限ルールやAI審判など、世界観の整理もしっかりされていて、SF的な背景が自然と物語に溶け込んでいる。
主人公トオルは異能なし・頭脳特出でなし、ただ「野球で嘘はできない」と言い切る。その不器用な一本気が第1話の魔球ホームランのシーンで一発で伝わり、打たれた1年生が膝から崩れ落ちながらも「やりすぎ」と怒られるトオルの無頓着さに笑えて、キャラクターとして一気に好きになれる。
幼馴染サキの「甲子園でトオルが投げているところが見たい」という言葉を胸に動き出すという構造は王道中の王道だが、コールドスリープで100年後に飛ぶという設定がそこに重なることで、ただの青春ものではなくなっている。
完結済み40話・10万字と読み切りやすい分量なのも好印象。野球小説として真剣に試合の駆け引きが描かれているので、異能ものが苦手でもスポーツ好きなら楽しめるはずだ。