這い寄れゴキ子さん 〜あなたがわたしのマスタ……あ、ちょっと逃げないでください!?

聖護院大根

【序章】女神が来たりて世紀末

零匹目 明日からデスゲーム……だと?

「こんにちは! 女神です!」


 五木泰司の部屋に女神が現れた。

 泰司はどこにでもいそうな普通の高校生で、普通の常識しか持っていない男子であり、もちろん交友関係に女神などいない。

 こんなシチュエーションはありえないくらい想像外だ。


 そして女神と名乗る女性は床から少し浮かんでて、白いゆったりとしたローブを鮮やかな青の腰帯でしめており、頭には月桂樹の冠をつけている。

 明るく輝く髪もあいまって日本人離れした美しい顔立ちだった。

 それ泰司が漠然と想像する女神のイメージそのものであった。

 面識もない男の部屋にいきなり現れるなんて非常識なのだが、そもそも常識が通じる相手ではなさそうだ。

 文句の一つもいいたいところだが、まずは様子をうかがうのが得策であろう。

 本当に女神だった場合、怒らせたらきっとマズイだろうから。


「えっと、何の御用で?」

「はい! 実はこのたび人類を滅ぼすことにしました!」


 女神と名乗る女性が、ニコニコしながらそう宣言した。


「人類を滅ぼす……はい?」

「はい? じゃないです。とにかく、人類を滅ぼすんです。もう決めたので覚悟してくださいね」


 女神が動くたびに輝きが揺らめき、狭い部屋まで神々しい。神か?

 だというのに、その口から出た言葉が終末宣言なのだから始末に終えない。悪魔か?


「いや、覚悟しろとか言われても……というか、なんで俺の部屋に?」

「悪いけど、選考過程は諸事情でおしえられないの。最終選考に落ちた人たちはそれなりに理由があるわけだし」

「うぐっ」


 その発言は何故か心に刺さる泰司だった。


「でも、最終選考を通過したあなたは本物よ! 実感がわかなければ、とんでもなくラッキーくらいに思ってくれればOKです。では、人類を滅ぼすためのルールを説明しますのでよく聞いてくださいね。あ、立ったままだと疲れると思うので、座ってもいいですよ」

「はあ……」


 そう言われてベッドに座ると、女神は断りもなく机の上に座った。

 少しでも高いところが好きなのかもしれない。さすがは神か。


「あなたにはコレを授けます」


 女神はどこからか一枚のカードを取り出すと、泰司へと投げだす。

 カードは物理法則を完全に無視しながら、ゆっくりと回転しながら進んでいく。

 泰司は目の前まで飛んできたカードを右手でつかんで受け取った。


 それは、黄金色の金属っぽい質感のカードだった。

 一ミリくらいの厚さがあって指では曲がらないほど硬い。

 ひんやり冷たいので見た目通りに金属製なのかもしれない。

 片面には一面に色とりどりの綺麗な模様がホログラムっぽく描かれている。

 反対側は、ふちにだけ装飾があるが内側には何も模様が無く、鏡のようになっていた。


「これは?」

「メタモルカードです。さきほど親切な方に命名してもらいました」

「……で、そのメタモルカードって、何ですか?」

「はいはい。ここからが重要なので、よーく聞いてくださいね」


 人差し指をぴんとたてて身を乗り出す。


「そのカードを人間以外のメスに押し当ててください。そうすると、その異性は人化します。オス・メスで繁殖できるような生物なら大概何でもOKです!」

「ちょっと待って。人化って何……」


 泰司が驚くように叫ぶと、女神は得意げな顔をする。


「ふっふ、ふん♪ これが人類滅亡の重要な鍵なのです。これで人化した生物と人類が、新世界のアダムとイブになるのですね!」

「アダムとイブって……。あなたはどこの女神ですか?」

「ごめんなさいね。それもちょっと言えないの。とりあえず、宇宙を作った偉い神様の使い走りくらいです。地球の文化には通じていますので、語彙として使ったまでですよ」


 素性は明かさないけれど、人類の文化には明るい女神らしい。


「それが本当なら、もう、現代科学の完敗だなおい」

「まあ、そんなのどうでもいいじゃないですか。どうせ滅ぶ種族の文化なんて」


 まったく酷い言いようだった。


「で、そのアダムとイブがどうやって人類を滅ぼすって?」

「それでは説明します。あなたが人化した異性とつがいになって繁殖したとしますね?」

「表現が妙になまなましくて、ドキッとします」


 少しばかり頬が高揚してしまう泰司だ。


「思春期の男の子らしくてお姉さん嬉しいな。で、その子孫たちはとても魅力的なので、どんどん繁殖して人類のDNAを駆逐していってしまうのですよ。第二世代からはすでに人間とは言えない種族なので、いまある人間の文化は引き継ぐことができません。とにかく、そうなったらもう、人類滅亡はカウントダウンです」


 女神は楽しくて仕方ないように親指を立てる。


「そんな、ぽんぽんと子供がつくれるかい!」

「それは、パートナー次第です。一度にたくさん子供をつくる生き物もたくさんいますしね。それに、あなた自身が自分の子孫たちとさらに繁殖してもいいですよ?」

「近親相姦じゃないですか!」

「やだなぁ、もう。人類の常識で考えないでくださいよ」

「……いや、人類とか、常識とか」


 ちゃんちゃらおかしそうに笑っている女神の前で、泰司は頭を抱えて考え込んでしまう。

 人類が築いてきた叡智や、常識がことごとく否定されてしまいそうな勢いだ。

 いたたまれない気持ちで手の中のカードを見た泰司にひとつ疑問が浮かぶ。


「このカードって……俺だけ?」


 女神は薄笑いを浮かべ、やや挑戦的な目つきで泰司をにらむ。


「いいところに気づきましたね! ふふふ、実はこのカードは世界に百枚もあるのです。この中から神々のゲームに生き残ったカップルだけが、新世界の始祖になれるのです!」

「えーと、つまり……、子孫を残せるのはその一組だけってこと?」

「その通りです。人化するパートナーは、あなたの好みのタイプをトレースするので大丈夫です。絶対にあなたを虜にするはずですよ!」 

「はあ、そうですか」

「何だか嬉しそうじゃないですね。まあいいです。私は忙しいのでこれにて失礼しますが、何か用がある時は呼んでください。気が向いたら来ますので」

「あの……。女神の呼び方なんて、俺は知らないんだけど?」

「綺麗で華麗な女神様! とでも呼んでもらえれば来たくなるかも?」

「……わかりました」


 つっこみを入れたい気持ちを、泰司はぐっと堪えた。

 そんな恥ずかしい言葉を叫んで、来てくれなかったらただの馬鹿である。


「それでは、アディオス!」


 だが泰司の心中などお構いなしに女神は消えた。煙のように消え去った。

 いっそうのこと全部夢だっのではないかと思うくらいには非現実的なことが起きたと思う。

 だがしかし、泰司の右手にはカードがしっかり残っていて、キラキラと輝いていた。

 このカードを所有する人間が世界中に百人いて、最後に生き残ったカップルだけが繁殖し、人類をやんわりと駆逐していくのだ。

 そして人類は滅ぶ。それは決まったことだという。


 泰司は大きく溜息をついた。そして、大きく息を吸う。

 だんだん頭がすっきりしてくるが、そこで大変なことに気づいてしまう。


「明日からデスゲーム……だと?」


 改めて認識すると背中が寒い。

 どんよりと嫌なものが腹にたまっていく泰司だった。


https://kakuyomu.jp/users/dollplayer/news/822139846054731757

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