物語を作品として世に送り出すまでに、書き手がどのような思いと向き合っているのか。
本作はそんな心情を丁寧に綴ったエッセイです。
物語は、思いついた瞬間に作品として完成するわけではありません。
多くの場合、作者の心のなかで少しずつ育まれ、整えられます。
時には長い時間をかけて、ようやく一つの作品になる物語もあることでしょう。
本作が語るのは、そんな書き手だけが知る〝時間〟です。
楽しく、苦しく、そしてとても大切な時間。
その積み重ねが、創作という営みの本質なのだと感じさせてくれます。
印象的なのは〝作品を温める〟という表現です。
本作の作者である、いのそらんさんのその言葉からは、まだ形になっていない考えや言葉たちさえも大切に抱き続ける、作者の深い愛情が伝わってきます。
まだ見ぬ物語に期待し、やがて作品として世に送り出す。
そして発表した後は、読者や評価に一喜一憂する。
けれど、多くの書き手は期待したほど報われることはないでしょう。
大きな夢を抱き、期待し、ときには打ちのめされながらも、それでもまた新しい物語を書き始めるのです。
なぜそこまでして書くのか。
その答えは、本作の中にあります。
〝書くことが楽しい〟という言葉の裏側には、数え切れない苦しみや葛藤、そして積み重ねてきた経験があります。
このエッセイは創作の歓びだけでなく、その陰にある苦悩までも描いた作品なのです。
そして、 まだ見ぬ物語を抱えながら前に歩み続けるすべての書き手に寄り添う。
そんな一篇なのだと思います。
作品を文章にして、
作者の思考の中だけに居る人物やモノ達に、息をふきこんでゆく。
作者が、引き出してやらなければ、決して現れることのない登場人物達。
作者の中で、生き生きと動き回っている彼等を、
愛しんで、育てて、文字の上に乗せてゆく。
この子は、こんな性格。
この人の良さを、どう表現したら伝えられるか。
作者の責任において、登場人物達が動き始める。
何を、どう伝えていくか……。
作者の中の多くの葛藤を踏み越えて、登場人物達は飛び出してゆく……。
作者の意図しない方向に進み始めたり、思いがげない事を言い出したり……。
そんな、書き手の想いを、何と丁寧に表現し、伝えてくれるのだろうと
この作品を読んで感動した。
物語を紡ぎ出す楽しみを知ってしまったら、
どんなに挫折しようと、それをまた糧にして
また書いてしまうんだろうな。
そう思わせてくれた。
全ての投稿者に、読んで頂きたい作品です。