お弁当、温めますか?
あざみ忍
第1話 お弁当、温めますか?
今日の夕飯となるコンビニ弁当を選んだオレは、それをレジに持って行く。
「お弁当、温めますか?」
「――ん、お願いするよ」
実のところ、このコンビニから自宅までは歩いて30分の距離があるため、温めてもらったところで、この季節はまるで意味を成さない。それでもオレが頼む理由。それは目の前の店員、
「では温めますので、少々お待ちください」
オレが買ったコンビニ弁当をレジの後ろにある電子レンジに入れると、スイッチオン。グォーッと無機質な音とともに、レンジの中で弁当が回り始めると、彼女が徐に口を開いた。
「
先輩からは新しいタスクを押しつけられ、後輩が起こしたミスの尻拭いをさせられ、同期からはどうでもいい惚気話を延々と聞かされた、そんな1日。疲れない方がおかしいってもんだ。
「社畜会社員さんは大変ですね」
「おうよ。木之下さん、おめぇさんが想像するよりずっとウチはブラックだから」
「でも、辞める気はないと?」
「まぁな。職場はクソだけど、この仕事結構気に入ってるんだ。それに、辞めるって何だか逃げるみたいでイヤなんだよ」
ちょーっと
「私って、嫌なことがあると直ぐ逃げちゃうんですよ。だから橘さんの働く姿勢っていうんですかね。まぁとにかく、尊敬します」
「オレは、そんなに立派な人間じゃねぇさ」
学生時代はとにかく人に迷惑を掛けてばかりだった。友人、教師、もちろん家族。それはもう酷かった。だが、社会人になるタイミングで一念発起。今は人生リスタートの気持ちで、社会の荒波に揉まれている最中なわけで。“尊敬”なんてとんでもなかった。
「橘さんって、自己肯定感が低いですよね。もっと自信を持ってくださいよ」
「そう言われてもなぁ……」
「少なくとも、私は橘さんが凄い人って分かっていますからね」
「そりゃどうも」
ピーピーピー♪ まるでタイミングを図ったかのように、温めを終える音がレンジから聞こえると、オレと彼女のささやかな時間も終わりを迎えた。
「明日もお仕事、頑張ってくださいね」
「おめぇさんもな。また来るよ」
「はい、ありがとうございました」
さぁて心が温かくなったところで、さっさと家に帰って、冷えたコンビニ弁当をもう一度温め直しますかねぇ。
お弁当、温めますか? あざみ忍 @azami_shinobu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます