君の手のぬくもり

ここグラ

君の手のぬくもり

「39度か……完全に風邪だな」


 ベッドで布団を被って横になりながら、俺……御手洗敦史みたらい あつしは体温計の表示を確認していた。今日は土曜日、休日だがこれでは外出することは出来ないだろう。


「昨日から体調が今一つだったからなあ……まあ、今日は一日寝てるしかないか」


 俺はため息をつき、布団を被り直した。静かだな……まあ、父さんも母さんも海外出張中だし、俺は一人っ子だから仕方がないんだが。こういう時は、誰かが傍にいてほしいって思うものだ。そんな奴がいるとしたら……


柚子ゆず……か。いや、それも昔の話か。今の俺と柚子は……住む世界が違う」


 前川柚子まえかわ ゆず……俺の幼馴染だ。小さい頃はよく一緒に遊んだりしたものだが、大きくなればお互い異性であることを意識するようになり、以前のような関係は続けられなくなる、良くある話だ。


 加えて柚子は小さい頃から、近所でも評判の美少女だった。成長して女らしさも増し、当然周囲もほおっておかない。その上明るく社交的で勉強も出来る、平凡な見た目でこれといった取り柄のない俺とは自然と所属するグループは変わっていった。


「今日も多分、友達と遊びにでも行っているんだろうなあ。いや、彼氏とかもしれないな、かなりモテるみたいだし」


 どこか自分に言い聞かせているような言葉に、我ながら落胆した。分かっている……昔から俺は柚子のことを友達以上の存在として見ているってことを。だけど、どんどん魅力的になっていく柚子に対して何も変わらない自分……叶わない夢だと悟り、それを認めたくないから自分に言い聞かせているのだろう。


「はぁ……何か余計憂鬱になってきた気がする。寝るか……」


***


 目を覚ますと、近くに人の気配を感じた。誰だろう……父さんと母さんなわけがないし。でも、どこか馴染み深いというか、知っている気配のような気が……


「柚子!!??」

「び、びっくりした。急に大声あげないでよ」

「す、すまん。でも風邪だって伝えてないし、そもそもどうやって入ってきたのかなと」

「用事があってLIYUしたけどちっとも既読つかないし、電話も出なかったから心配になって来たのよ。あと、敦史のお母さんに合鍵渡されているから」

「あ……そういえば」


 海外出張中心配だからって、母さんが『柚子ちゃんに合鍵渡しておくから、いざという時は頼りなさい』って言っていたな。全然来ないから、忘れてたけど。


「もう、来てみたらおでこに濡れタオル乗っけてベッドで寝てるもんだから、風邪だって分かったけど。頼りなさいよね、何のための合鍵なのよ」

「悪い……」


 柚子は俺のおでこからタオルを取り、新しいのに交換してくれた。傍には飲料とカットしたりんごがある。世話好きなのは、昔から変わらないな……それに、甘い良い匂いがする。柚子の匂い、なんだろうか。


 ……やっぱり可愛いよな、成長して体つきも大人びて、益々魅力的な女の子になっている。クラスの男子連中が夢中になるのも当然か……そんな子と今、部屋で2人っきり。何というか……意識しちゃうな。


「今日は、どこか遊びに行ったりとかしないのか? 休日だろ」

「一応この後友達と遊びに行く予定があったけど、キャンセルしたよ」

「え……どうしてだ?」

「そりゃ、敦史の看病があるからに決まってるじゃない。それに、予定って言ってもちょっとカフェでお茶する程度だったし」


 それって……俺が柚子の休日を邪魔したってことじゃねえか。罪悪感で胸が痛くなり、俺は思わず呟いた。


「……俺のことなんか良いから、遊びに行って来いよ。ただの風邪なんだしさ」

「無理だよ。敦史のこと……ほおっておけない」

「幼馴染だからって、そこまでする必要はないんだよ。俺と柚子はもう……住む世界が違うんだ。俺みたいなボンクラに構ってないで、お洒落な友達とか彼氏とかと一緒にさ」

「……何よ、それ」

「柚子?」

「私は今だって、敦史のこと大切に思ってる!! 住む世界が違うとか、寂しいこと言わないでよ……」


 柚子は俺の前で椅子に座り、涙を流している。どういうことだ……てっきり俺なんかと一緒にいるより、そういう人達と一緒にいる方が楽しいから離れていったのかと思ったんだが。


「でも、最近家に来ること全然なくなったし、学園でもそういう人達のグループと一緒にいることが多くて、俺にあまり話しかけてこないじゃん」

「そ、それは……私ももう高校生だもん。男の子の家に気軽には……行けないよ」

「……」

「それに友達から、敦史のこと聞かれたりするのよ。冷やかされるの恥ずかしいから距離取ってたんだけど……もしそれで敦史のこと傷つけてたなら、ごめん」


 そういえば、柚子は昔から割と照れ屋さんなところがあったな。それに女子高生ともなれば、そういう悩みは珍しくもない、か……


「悪い、俺自分のことばっかり考えてた」

「ううん、それはお互い様。誤解が解けて、良かったよ」

「そっか……」

「それはそうと、体調はどう?」

「熱は結構下がったんだけど、お腹の調子がまだ良くないんだよなあ」

「なるほど、それじゃあ……」

「ゆ、柚子!!??」


 柚子が急に、俺のお腹を優しく撫でてきた。細くて華奢な、可愛い手だ。くすぐったいというか、恥ずかしいというか……


「これでちょっとは、楽になるかもしれないでしょ?」

「そ、そうかもしれないが」

「早く元気になって、敦史。今度の休日……一緒に遊びに行きたいし」

「……ああ」


 柚子の優しさに包まれ、俺は穏やかな気持ちで眠りについた……


***


 目を覚ますと、お腹の調子は大分良くなっていた。柚子のおかげ、だろうか。体を起こすと、柚子が俺の体に覆いかぶさるように突っ伏して寝ているのに気づいた。


「すう……すう……」

「……可愛い寝顔だな」


 やっぱり俺は……柚子のことが好きだ。釣り合わないかもしれない、柚子が俺のことを好きかどうかも分からない。だけど……それで諦められる気持ちじゃ、ない。


 釣り合わないなら……釣り合うような男になる!! 柚子に好きだって言ってもらえるような、男に。俺の心に再び温もりを与えてくれた、この子とずっと一緒にいられるように……




~あとがき~


 読んで下さって、ありがとうございました。最近は果物の名前の女の子キャラが多いなあ……苺だったり林檎だったり蜜柑だったり柚子だったり。柚子の匂いや味ってホッとしますよね、今回はそれを意識して書いてみました。


 カクヨムコン11では他にも、長編ミステリー『冥恐の死神伝説殺人事件~瞬間移動を使い、乙女を狩る怪物~』を書いておりますので、読んで下さると嬉しいです。作品のURLは以下の通りです。


https://kakuyomu.jp/works/822139840483911526

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