先住民⑧【トニー】

気を失って倒れたメアリーに駆け寄った。


右肩の槍は倒れた衝撃で抜け、傷跡からは血が流れ指先まで赤く染めていた。


メアリーをに声をかけながら抱きかかえると、少女に小屋に戻るよう促された。


拳に力が入る。

矢を放ったであろう男も二本目を向けてこない。


ここでこの少女を人質にして脅すか?

いや、メアリーを抱えてどこまで出来るというのだ、

勝率は低い。


怒りがこみ上げてくるのを感じる。

心臓の音が速くなり、呼吸が乱れる。


冷静になれ。


ここで感情に任せて動けば確実に二人とも殺される。


深く息を吐き、メアリーを抱えて少女の後を追った。


小屋に入ると、赤ん坊の母親が驚いた顔をして少女に話しかけていた。

それに少女が答え軽い口論が始まった。


メアリーを床に下ろすと、少女が包帯を手渡してきた。それを使い、傷を巻き押さえて止血する。


立ったままその様子を見る少女が小さな声で話し出した。


『どくのくすりをやにぬって、ころせいわれた』


即座に少女の顔を振り返る。


ポロポロと涙が溢れ始めた。

声が震えている。

『でもできない。たすけてくれたから。』


少女は母親に抱かれている赤ん坊に視線を流す。

数日前とは違い、傷からの膿も出なくなり、機嫌よく母乳を飲んでいる。



「メアリーはこのまま死ぬのか!?」


思わず少女の腕を掴んでしまう。


少女はビクッと身体を震わせた後、首を横に振った。


『ねむるくすりにかえた。でもけがした。わるいことした』


その時、か細い声が聞こえた。


「トニー…」


急いでそばに行くと、力なく笑った。


「ありがとう、我慢してくれたんだね」


「ごめん!俺をかばったせいで…」


「いや大丈夫。私もまだまだってことね」


寝たままゆっくり右腕を上げるが、痛みが走ったのか苦痛の表情を浮かべ左手で肩を抑える。


「幸い、骨や大きな血管には当たってないみたい。

でも痛くてしばらく右腕は使えないかな。」


その時、少女と母親が小屋に入ってきた。

いつの間にか外に出ていたようだ。


少女が小走りで走ってくる。

『いまならにげるできる。はやく。』


袖を引っ張り外に連れて行こうとする。


その時メアリーが少女を抱き締めた。

「ありがとう。」


ゆっくり続ける。

「私はあなたたちと仲良くなりたかった。」


少女は涙ぐみメアリーを見つめる。

「今回はできなかったけど、いつか共に生活できる日がくると信じてる。」


少女は涙を拭きながら、何度もうなずいた。


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