公爵家の噛ませ犬は牙を剥く~ゲーム知識で基礎魔法を鍛えまくった俺、推しの死亡回避のためにシナリオを完全破壊する~
ナガワ ヒイロ
第1話 噛ませ犬、推しの靴を舐める
魅力のある悪役は、時に主人公やヒロインの人気を上回ることがある。
俺がやり込みまくった『神剣勇者と五人の聖乙女』に登場するラスボスもまた、そういうキャラクターの一人だ。
まず単純に顔がいい。
それでいて悲しい過去を背負っており、何一つ救いのない終わりを迎える。
だからこそ、自分が『神剣勇者と五人の聖乙女』の序盤で主人公にウザ絡みしてあっさり負ける噛ませ犬に転生したと気付いた時に決めた。
俺が
そのためなら人類だって裏切るし、主人公やヒロインも排除する。
もしかしたら世界とか滅びちゃうかもしれないけど、細かいことは気にしない。
推しを死なせないためなら、俺は何だってすると決めたのだ。
◆ ◇ ◆
アルクォート王国の王都。
その一画にある貴族の子供が魔法を学ぶために作られた学園の校庭での出来事だ。
「僕の勝ちだ、ガルフ・フェルト」
そう言って俺の喉元に剣の切っ先を向けるのは黒髪の少年だ。
非常に整った顔立ちをしているが、あまり特徴はない。
彼の名前はアレン。
いずれ世界に訪れる災いを退ける勇者であり、俺を決闘で打ち負かした人物だ。
っと、いけないいけない。
「ちくしょう!! 平民のくせに調子に乗りやがって!! 覚えてろよ!!」
シナリオ通りの捨て台詞を吐き、俺は校庭から逃げ出した。
俺の名前はガルフ・フェルト。
アルクォート王国でも有数の名門貴族、フェルト公爵家の三男だ。
突拍子もないことを言うが、俺には前世の記憶がある。
あるゲーム――『神剣勇者と五人の聖乙女』に登場するヒロインにガチ恋していた、割と頭のおかしい男の記憶。
そして、ガルフ・フェルトは平民なのに勇者だからという理由で魔法学園に入ってきた主人公にウザ絡みして決闘を挑む。
まあ、結果はご覧の通り。
ガルフ・フェルトはあっさり返り討ちにされる噛ませ犬だったのだ。
しかし、俺の出番はまだ終わりではない。
学園の校舎裏にやってきた俺は、置いてあったゴミ箱を蹴飛ばして怒鳴り声を上げる。
「ふざけやがってふざけやがってふざけやがって!! どうしてこの俺が平民風情に負けなきゃいけねーんだ!! 絶対におかしいだろうが!! そうだ、アレンのクソ野郎はきっと不正をしてたに違いない!!」
一言一句、ゲームと同じ台詞を吐く。
ふっふっふっ、俺は『神剣勇者と五人の聖乙女』をクリアしてはデータを消してまた最初からやり直していたからな。
登場キャラの台詞を全て暗記しているのだ。
そして、この台詞を言うことでガルフ・フェルトにはイベントが起こる。
可愛いヒロインたちに囲まれる主人公に嫉妬し、その憎悪にラスボスに目を付けたラスボスによって物言わぬ傀儡にされてしまうのだ。
その後は再び主人公に挑み、シャルメアから与えられた闇の力が暴走。
ぐちゃぐちゃの肉塊に変わり果てて、ヒロインの祈りで覚醒した主人公に倒されて死ぬわけだが。
さて、そろそろか。
『その凄まじいまでの憤怒、憎悪……素晴らしい』
「んでゅふっ……コホン。な、なんだ!? 頭の中に直接声が響いて!?」
突然聞こえてきた声に思わずテンションが上がって気持ち悪い笑い声が出そうだったが、どうにか堪えて困惑したフリをする。
すると、不意に俺の足元の影が蠢いて十歳くらいの少女の形を成した。
一言で言えば、美しすぎる少女だった。
艶のある長い黒髪と血のような真紅色の瞳、恐ろしく整った顔立ち。
身にまとった黒のゴスロリ衣装のせいで人形のようにも見える。
少女はスカートの裾を摘まみ、思わず見惚れるくらい優雅なお辞儀をした。
「我は厄災の魔女シャルメア。汝に我が闇の力を与え、勇者に復讐する機会を――」
「お会いしとうございましたシャルメア様あああああああああああああああああああああッ!!!!」
俺はその場で正座し、額を地面に擦り付けた。
「え、は?」
「俺の名前はガルフ・フェルト!! 貴女様の忠実な配下であり、下僕であり、奴隷であります!! さあさあ!! 何なりとご命令を!!」
「ま、待て。一度落ち着いて――」
「はい、落ち着きました」
「急にスンとするな!!」
俺はこの時をずっと待っていた。
ただの噛ませ犬でしかない俺が唯一ラスボスであるシャルメアに会える、主人公との決闘で負けた後のイベントを。
「シャルメア様、まずは俺の話を聞いてください」
「……なんだ?」
「俺には前世の記憶があって、シャルメア様のことを誰よりも知っています」
「なんだと?」
シャルメアは不快そうに顔をしかめた。
「シャルメア様の趣味嗜好を始め、下着の色――コホン。貴女の過去、これから貴女が経験する未来も知っています」
「待て汝。汝今、下着の色と言おうとしたか!? おい無視するな!!」
「とにかく!! 俺は貴女が大好きで、貴女を守るためなら何だってやります」
「……では我が靴を舐めろと言ったら――」
「れろれろっ!! じゅる!! 靴うまっ、シャルメア様の靴うまっ!! あ、靴の裏も舐めるのでちょっと足挙げてください」
「気持ち悪い!!」
「おうふっ!! 容赦のないキック、ごちそうさまです!!」
シャルメアの刺すような鋭い蹴りが正確に俺の頬を捉える。
まあ、ご褒美だな。
「汝が何を言っているのか、我には何一つ分からん」
「またまた~、その眼なら俺が嘘を言ってるかどうかも分かるはずでしょう?」
「……我の魔眼についても知っているのか」
シャルメアは無数の魔眼を持っている。
そのうちの一つに、相手の嘘を見抜く魔眼もあるのだ。
彼女ならば俺の話が嘘か真か、瞬時に見分けることができる。
だからすぐに俺の言葉を信じてもらえるだろうと思っていたのだが……。
シャルメアは難しい顔で言った。
「だからこそ分からん。我を守るだと? 我が何をしようとしているのか分かった上で言っているのか?」
「復活して人類を皆殺しにした後、魔物の楽園を作るんですよね?」
「……汝は、同族を殺すことを何とも思っておらんのか?」
「はい」
「狂人か、汝」
……まあ、否定できないな。
上手く言い表せないが、俺は周囲の人々を同じ人間だと思ったことがない。
だって俺にとっては主人公もヒロインも、シャルメアさえも『大好きだったゲームのキャラ』でしかないからな。
要はゲーム感覚なのだ。
ネトゲでプレイヤーやNPCを殺害するのとあまり変わらない。
そして、それは他の人に限った話ではない。
「俺が気に入らないなら殺してください。できるだけシャルメア様を楽しませられるように踊り狂いますので」
「やはり狂人だな、汝!! ……よかろう、では汝に一つ試練を与える。勇者を殺し、その首を我に差し出せ。それを汝の忠誠の証として受け取ろう」
「え、それだけですか?」
俺が首を傾げると、シャルメア様は「フッ」と笑った。
「先ほどの戦いを見ていたぞ。汝は全く勇者に歯が立たなかったではないか」
「そりゃまあ、あそこで負けないとシャルメア様にお会いできなかったと思うので」
「わざと負けたとでも言うつもりか?」
「はい、そうですけど」
「……ではさっさと勇者を殺して来るがよい」
俺は校舎裏から飛び出して、ダッシュで校庭へと向かう。
そこには勇者改め、主人公であるアレンと決闘の勝利を称えるヒロインたちの姿があった。
アレンやヒロインたちがこちらに気付いて身構える。
「何か用かな? 決闘は僕の勝ちで終わったはずだけど」
「ちょっと!! まだアレンに突っ掛かるつもり!?」
「潔く負けを認めるべきです、フェルト公爵令息」
「これ以上アレンに付きまとうなら私たちが相手になる」
「いや、ヒロインに用はないんだ。ちょっとアレンに死んでもらうだけでいいから」
「「「「……は?」」」」
俺は魔法陣を展開し、攻撃魔法の基本である〈マジックアロー〉を放った。
名前の通り、魔力の矢を撃つ魔法だ。
俺、というかガルフ・フェルトは所詮ただの噛ませ犬だからな。
もっと威力のある魔法を習得したかったが、俺にはこの魔法が限界だった。
だから限界まで〈マジックアロー〉を極めた。
「っ、不意打ちとは卑怯だね。でも〈マジックアロー〉は〈マジックシールド〉で簡単に防げ――え?」
アレンは俺の不意打ちに反応して、魔力の盾を形成した。
普通の〈マジックアロー〉ならば盾に弾かれて終わりだろう。
しかし、俺が放った〈マジックアロー〉は貫通力を高めている。
アレンの〈マジックシールド〉はあっさりと貫かれて、その心臓を撃ち抜いた。
突然の出来事にヒロインはおろかアレン本人も呆然としているが、そのチャンスを見逃すような真似はしない。
「ヒャッハァーッ!! 俺とシャルメア様のために死ね、勇者ァッ!!」
「あ、え――」
俺は〈マジックアロー〉の乱れ撃ちで主人公の命を刈り取った。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント設定
『神剣勇者と五人の聖乙女』
五人のヒロインと魔法学園に入り、学園生活を送りながら様々なイベントをこなして復活した厄災の魔女を倒すRPG。複数のエンディングがあるが、どのルートでもシャルメアは死ぬ。ついでにガルフも死ぬ。
「主人公が気持ち悪いw」「舐めるどころか啜ってるだろ」「原作主人公が死んだ!?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
次の更新予定
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公爵家の噛ませ犬は牙を剥く~ゲーム知識で基礎魔法を鍛えまくった俺、推しの死亡回避のためにシナリオを完全破壊する~ ナガワ ヒイロ @igana0510
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