無題ー手を尽くす男と手を焼かせる女ー
花森遊梨(はなもりゆうり)
最後に残されたベッド
始まり
「庭でBBQをしたい」
そう言い出した銅島操は、ぱっと見だけなら文句なく可愛い部類に入る。整った目鼻立ちに、健康的な肌色。背は高すぎず低すぎず、無駄のない体つきで、運動が得意だと一目でわかる。
――ただし、それに気づけたらの話だ。
今の格好はどこまで出歩いていいのか判別に困る部屋着だし、髪も特別凝った手入れはしておらず、適当に下ろしている。何より俺に買い物を言いつけておいてこの発言だ。
つきあいきれん
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」
もう帰ることにした。彼女は突発的にこういうことを言うことがある。旨辛チリトマト鍋スープの素と、生のブロッコリーとそれ以外の材料一式を台所に置くと、そそくさと玄関に行き、靴を履いて立ち上が
「なんで」
2本の腕が俺の首に絡みついてきた
「メインゲストが帰ろうとしてんの?」
何気なしに膝裏を蹴って絞首台みたいな体勢にしている
「死ぬ死ぬ死ぬ!!!わかった、わかったからその手を離せって!」
そんなわけでバーベキューの準備を始めることになってしまった!
暗い色になった安い肉と色の悪い野菜を買ってきて火をつければ良いかと思ったお前は甘い。操の家の庭にはまずバーベキューセットを出すスペースがない。
代わりに庭に立ち並ぶのは木製の椅子、テーブル、棚。どれも形だけは家具で、どれも完全には役目を果たしていない。座れば倒れ、物を置けば派手に倒れ、触れただけで崩れることはないのは奇跡。
ちなみに全てはメイドイン操
「ねえタカ、こっちは準備できたよ」
操の声に振り向く。部屋着のまんま彼女は軍手をはめ、工具箱を抱えて立っていた。
「明日は、粗大ゴミの日だからさ」
「それは汚れてもいい服なの?」
ここにあるのは、全部、銅島操の手が伸びた結果だった。始めて木材を切り、釘を打ち、足りない部品は「誤差」として無視した、操のあの手。
寄りかかった瞬間、最初の椅子は根本から足が折れた。そして、その誤差をどうにかする役目は、いつも俺だった。ダクトテープで巻き、ネジを足し、使える形に仕立て直す。ようやく見栄えする格好になった椅子は、今度は腰掛けると図ったようにひっくり返るようになった。たそうやって庭は、もっぱら立ち食いの場になったし、ついでに少しずつ狭くなっていった。
解体しながらも ちょっと目頭が熱くなる
「タカ、こっちは全部バラしたから粗大ゴミに持ってくの手伝ってー!」
全部バラバラにしていた
「感慨ってものはないのかよ…!」
操は全く容赦がないさすが作った本人だけはある。神様だって自分で一から作った人間が不出来だからと洪水を起こしたり、ソドムとゴモラというよくわからない人を天の火で破壊したり伝染病で皆殺しにするのだから、一から作った側と手を加えた側にはおそらく見える世界の違いがあるのだろう。
そんなことをしてるうちに、バーベキューをするには暗くなってしまった。
「今夜の気温は氷点下になるってのにどうして操は外で食べたがるんだよ…?」
夕飯はチリトマト鍋スープになった。こんなこどあろうかとこっそりと全ての材料を下拵えして寸胴鍋に入れておいた甲斐があった
「いーでしょ?外で楽しくする気分だけでも味わいたいんだもん」
それをわざわざ庭の真ん中残ってしまった大きなベンチのところに持って行って食べている…
「あれ、ブロッコリーがおいしい?もっとベチャベチャで色つきもさえない栄養剤代わりだったと思ってたのに」
「こんかいは生のブロッコリーを丸ごと二つ入れたからな、それだけでも別物になるのだよ」
タカが知らないことがある
今二人が腰掛けている大きなベンチの正体は、操が唯一解体しなかったダブルベッド。
それは操が始めて手作りした家具であった。
当時、小学五年生だった二人がプレイしていた牧場経営ゲームに触発されたものであることを、タカは知らない。
そのゲームにおける結婚の条件は「自宅にダブルベッドを設置する」ことであった。プロポーズをOKしてもらうには家に結婚相手を寝かせるダブルベッドがなければダメという要素を笑っていたのはタカ。それを知った操の目の色が変わっていたことは、誰も知らない。
無題ー手を尽くす男と手を焼かせる女ー 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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