拍手葛彩

Popon

冒頭

ある楽曲をもとに広がった物語。


旋律に導かれるように、ページをめくるたび新しい景色が立ち上がる――それが「香味文学」です。





***





包装紙に包まれた箱が、部屋の隅に揃えて重ねられている。

大きさは似ているが、紙の折り目や紐の位置は少しずつ違い、それぞれは別の場面から持ち帰られたものだった。

日々の忙しさから中身を確かめる気にはなれず、ほどかれないまま時間だけが積もっていた。


クローゼットを開けると、リクルートスーツが並ぶ。

その脇には、改まった場に出るための服が掛けられていた。

どれも色や形に主張はなく、場に馴染むことだけを考えて選んだものだ。

引き出しからアクセサリー用の小さな箱を取り出し、指先で留め具を探る。

真珠のネックレスは、絡まらないよう丸く収まっていた。

理由は考えず、それを手に取る。


テレビでは、アナウンサーが週末の天気を淡々と読み上げている。

曇りのち雨と告げる声は、生活の音に混じって聞き流された。


今日は結婚式の代理出席。

新婦の大学時代の先輩という役割を、私は預かっている。

名前も思い出も、今日の席に必要な分だけあればいい。

バッグを手に取り、首の後ろでネックレスの留め具を止める。

鏡に映る私は、どの席にも違和感なく収まる顔をしていた。




席に腰を下ろし、周囲を見回す。

同じような装いの人たちが、同じ方向を向いて座っていた。

手元の紙を整える人もいれば、隣と小声で言葉を交わす人もいる。

どの顔にも、特別な違いは見当たらない。


ふと、この式場に自分と同じ立場の人が混じっていたとしてもおかしくはないのだろうなと思った。

誰かの過去を知っているように振る舞い、決められた時間を過ごすだけの人間は、ここでは目立たない。

むしろ、それを求められていると言っても良い。


多くの式は、ごく普通に見える。

整えられた席と、揃えられた表情が並んでいれば、それだけで十分なのだ。

事情を抱えたまま誰かを呼べなかった人や、数を揃えなければならなかった人の都合は、表に出ない。

そういう部分は、うまく隠される。


だからといって、それを否定する理由はない。

私はただここに座り、誰かを責める立場でも、線を引く側でもない。

必要だから呼ばれ、求められた役割を果たしているだけだ。

そう考えると、この場にいる理由は他の来賓と変わらない。


背もたれに軽く体重を預け、視線を前に戻す。

開始を待つ空気が、均されたまま広がっている。

私はその一部として静かに息を整え、扉のほうへ目を向けたまま動かずにいた。




司会者が式の始まりを告げ、会場の視線が出入り口に集まる。

私はそれに合わせて、背もたれから体を起こした。


華やかな音楽が流れ、扉が開く。

新郎新婦が姿を現し、ゆっくりと通路に足を踏み出す。

新郎は前を見据え、顎を引いたまま歩いている。

隣の新婦は、少し遅れないように歩幅を合わせ、指先に力を入れてブーケを持っていた。





***





※この作品は冒頭部分のみを掲載しています。






続きはnoteにて公開中です。






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