半分を探して
@hibi_moya
半分を探して
目の前には壁がある。壁からはさまざまな姿勢の「手」が生えている。ざっと数えたら百八つあった。手はそれぞれ等間隔ながらもさまざまな姿勢のものが無作為に並べられている。
5、6歩後退して眺めると、一つの塊が円を成しているようにも見える。近づいて個々の手を眺めてみると、こちらに向けて開いた姿勢をとったもの、それぞれの指をすぼめて天井に向けているもの、薬指と小指は固く握っているが、親指と人差し指は緩んでいるものなど、形容すればキリがない。
壁の色は黒く、天井の照明を吸い込むようなマットな質感でプラスチックを思わせる。壁から生えている手の色は石膏を思わせる白色で、艶の反射が目に入る。
遠目から見るとあまり分からなかったが、近くに寄ってみると節くれだっているもの、細い指で皺が一切見えないもの、ふっくらとした小さい指の手、ざらついた表面のものなどが様々だ。
ここにきたきっかけは旧友からのメッセージだった。
個展をやるのでよかったら、という内容だったのだけどそもそもアート活動をしているとは全く予想していなかった。しばらく前の記憶ではお互いスーツを着て主に機械メーカーの企業向けで就職活動をしていたし、時々会って話をするときもオタクな趣味の話だったりいわゆる「会社員あるある」な話がほとんどで、アートの話なんて出たことは全く無かったのだった。
「来てくれてありがとう」旧友が近づいてきて話しかけてくる。
「こんなに手を作ってると思わなくてびっくりした。石膏?」私が聞き返す。
「そうそう。少しずつ集めてたんだよね。ふとしたきっかけで近所のギャラリーの方に相談してみたら、意外とウケてぜひ展示してほしいと言われて」
「これはやっぱりあのシーンがきっかけ?」最初に見た時から気になっていたことを聞くことにした。
「そうそう!やっぱり衝撃だったからさあ」
具体名を出さなくても思い出すことができる。振り向いてはいけないと噂されている路地裏で振り向いてしまって、無数の手に連れ去られてしまう、2人で学生時代によく話していた漫画のワンシーンだ。
とはいえこの展示自体は配置も違うし、手の種類自体もかなり多様だったので必ずしも元の作品のように筋肉質にごつごつとした手が多数ある構図へのオマージュ一辺倒、というわけではないのだろうなとも思った。
「実際に作り出すのがすごいよ。最初作った時って何かあったの?」学生時代にはこんな話はしたことが無かったのだ。
「知り合いで石膏像を専門に制作してた人がいたんだよね。それで一度お互いの手の像を作ってみたんだけど、なんかそれでスイッチ入っちゃって」
言ってくれれば協力したのに、と言おうと思ったのと同時にそれを言うのはどこか無粋な気がしたので、話題を変えることにした。
「いろんな人たちの手がある」
「手から読み取れることって意外とたくさんあるなと思ったよ」旧友が続ける。
「この数はちょっと想像がつかない」
「自分でも気づいたら、って感じだったね。直感が働いたらその人の話を聞いてみる...もちろんそうしてくれる人という前提だけどね。色々話を聞いた後で自分のやっていることを少しだけしてみて、話が合いそうだったらたまに協力してもらう。この繰り返し」
「百八人分ってことでしょ?途方もない」
「別にこの展示を目標にしてたわけじゃないからね。数は気づいたら後からついてきただけだよ...あ、ごめんちょっと挨拶したい人がいる」
「自分のことは気にせず。それじゃまた」私は会場を後にした。
全て「右手」だったな、と思い返しながら家に戻った。
家に戻って壁を眺める。百八つの左手が目の前に円状に並んでいた。
半分を探して @hibi_moya
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