狐「手伝ってくれませんか?」

まれえ

第1話

お題『手』 


 その夜、私は飲み会の帰り道だった。

 自宅近くの街灯の下で、「手伝ってくれませんか」と声をかけられた。三十路を過ぎて女友達と、飲む酒の量が増えた。ほろ酔いの目を凝らしてみると、きれいな女の人が立っていた。

「どうしましたか?」

 同性であるという安心もあって、声をかけた。

「しっぽが隠せなくなってしまって」

 瓜実顔のしとやかな美人は言った。そして、背中を向けて、スカートを捲り上げるように生えたふさふさの尻尾を見せてきた。


「えっ」


 尾てい骨からキツネの尻尾が出ている。そして、ロングスカートをたくし上げるようにしているから、なんだか危なっかしい。私は咄嗟にスカートの裾を引っ張った。


「どうすればいいでしょう」

 美人は困って潤んだ目で、私を見てくる。あきらかに異常事態。飲み過ぎて、幻覚見てるのかも。でも、こちらをすがるように見てくる彼女を放っておけなかった。


(まぁ尻尾がかわいいし、いいか)


気がつけば、

「それは大変ですね、とりあえずうちに来ますか?」

と言っていた。




 家に帰ってよく見たら、彼女の手も狐になっていた。



 キツネ女(?)はさめざめ泣いた。

私は新しいティシュボックスを出してやる。彼女は言った。


「近くに神社がありますよね」

「あぁ、あそこね……」

 私は追い酒しながら言う。飲まなくちゃやってられない。

「……今年行ったよ。友達と、厄払いで」

 ついでに縁結びのお守りを買った。今のところはまだご縁はない。けれども、キツネの描かれたお守りは可愛いから鞄につけている。



「そこの神社の神主さんに嫁ぐ予定だったのです。……とても優しい方で」


「そうかそうか」

 私は酒を飲みつつ聞く。

「ところでこの手可愛いね、触ってもいいですか?」

「どうぞ」と差し出された黒い毛並みの手のひらをぷにぷにしたら幸せな気分になった。動物のなかでなぜか一番キツネが好き。



「せめて一目会いたいのです。連れて行ってもらえませんか?」

 キツネ女は涙をたたえつつも、凛とした目で言った。

「夜だけど?」

「明日はお祭りの日なので、神主さんはまだ準備してると思います」

 ええー、と思いながらも、飲みすぎたことだし、帰り道コンに寄ってお茶でも買うかくらいのつもりで「いいよ」とこたえた。


 

 神社の鳥居をくぐる。狐の像があった。私は足元ふわふわしたまんま、「神主さんに会えるといいね〜」なんて言っていた。繋いだキツネ女の手のぷにぷに、毛並みふわふわでやっぱり心地良い。



 神主さんは社のほうで、何やら支度をしていた。そのまじめそうな横顔が、どこか初恋の人に似ているなと思った。

 

 しばらく彼を見ていたが、キツネ女はぽつりと言った。

「やはり私は神主さんには嫁げません」

諦めないでよ、と言いかけた私に、彼女は続けて言った。優しい声だった。


「……あなたに託します」


「へ?」


 途端、めまいがした。ヤバい飲み過ぎたかも。

……気がついたら、私は境内で倒れていた。




 酔って転んで頭を打った私を、助けてくれたのは神主さんだった。


 そして、キツネ好きという共通点から話が盛り上がり、気づけば結婚することになっていた。


 狐につままれたような感じだが、彼女と繋いだ手の感覚はずっと忘れられない。



ー終わりー

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