『恋の呪文とAI分析で異世界攻略してみた 〜ソースは数万冊のラノベですけど何か?〜』

sora_op

第1話「オス猫と誤変換と、人生最悪の告白未遂」

私、甲賀魔子(こうがまこ)、17歳。


本日の戦績――告白未遂、通算47回目

(体感)


「翔(かける)くん、あの、えっと……」


放課後の教室。夕日が差し込む中、私は片思い歴3年の相手・飛田 翔くんの背中に声をかけていた。


翔くんが振り返る。サラサラの黒髪が揺れる。完璧な横顔。優しい瞳。


ああダメだ。かっこよすぎて直視できない。


「ん? どうした、甲賀さん」


「あ、えっと、その……」


言え。言うんだ私。『今度の日曜、映画行かない?』たったの15文字…ひらがなにしたら25文字。ツイートの文字数制限の5分の1以下。言える、練習したもん、絶対言えるはず!!


「……消しゴム、落ちてた…よ」


「え? あ、ほんとだ。ありがとう」


違ああああああう!!バカバカ!

私が拾ったのは ワタシの消しゴム だ。しかも今ポケットから出した。何やってんの私。


「じゃあな、甲賀さん、ありがとうね」


「……うん」


翔くんの背中が遠ざかっていく。


言えなかった。また言えなかった。

またまた言えなかった…


『ありがとう』すら言えない。好きな人に、たった5文字の感謝すら。


私は自分の机に突っ伏した。


「……はぁ」


スマホを取り出す。画面には、最近インストールした生成AIアプリ『キューピクル』が起動したままだった。


『質問を入力してください♪』


やけくそで打ち込む。


『好きな人に告白する方法を教えて』


AIの返答は一瞬だった。


『検索完了! 恋愛成就の最適解は――**「勢い」です! ソースは『と●ドラ!』『俺ガ●ル』『か●や様』他、3,847作品の統計データより。深く考えず、感情のままに突っ走った告白の成功率は78.4%! 逆に、考えすぎた告白の成功率は12.1%です。結論:今すぐ追いかけてください。』


「いや普通に無理だが?」


大丈夫かな、このアプリ…


私はスマホをカバンにしまった。

AIは所詮AI。陰キャの気持ちなんかわかるわけない。


重い足取りで学校を出る。


商店街を抜け、いつもの帰り道。


頭の中は翔くんのことでいっぱいだった。あの優しい笑顔。誰にでも平等に接する完璧さ。でも時々、ふと寂しそうな目をする瞬間がある。


ああいう時、声をかけられたらいいのに。


『大丈夫?』って。

『私でよければ話聞くよ』って。


でも私には関係ない。だって私は、翔くんにとって「消しゴム拾ってくれるクラスメイトA」でしかないから。


「……なーう〜」


ふと、足元で声がした。


見下ろすと、一匹の猫がいた。


セピア色の毛並み。大きなアーモンド形の目。そして――


「……ちっさ」


小さい。子猫かと思うくらい小さい。


なのに、なんだろうこの貫禄。


完全にこっちを見下してる目をしてる。


「なーう〜」


「え、何」


「な、う〜」


「いや何」


猫は私の足にすりすりしてきた。小さいくせに妙な存在感。


「ちょ、何、どいて――」


その時だった。


猫が、いきなり車道に飛び出した。


「え」


クラクション。


まぶしいヘッドライト。

体が勝手に動いていた。


「危ないっ!」


猫を抱きかかえる。


視界が白く染まる。


衝撃。


そして――


私の意識は、そこで途切れた。


---


目を開けると、空が紫色だった。


「…………は?」


草原。見渡す限りの草原。


空には月が二つ浮かんでいる。遠くに見える山は、なんか光ってる。


「いや待って待って待って」


私は飛び起きた。制服のまま。カバンもある。スマホも……ある。


でも周りの景色が完全におかしい。


「ここ、どこ……?」


『おはようございます、マコ様!』


「ひゃあっ!?」


突然、目の前に光の粒子が集まった。


そして現れたのは――天使の羽が生えた、15センチくらいの小さな人型ホログラム。茶髪のメガネ男子。なんかこう……モテなさそうな雰囲気がすごい。う〜ん普通にクラスにいたら私より陰キャだろうな…みたいな…


『お目覚めですね! 私はキューピクル。あなた様の恋愛成就をサポートする最新鋭AIです♪』


恋愛成就をサポート。

えっ、この状況で…あ〜ありがたいって、


いや違う。違わない!?それどころじゃないでしょ!


「え、ちょ、キューピクルってあのアプリの……」


『はい! 異世界転移に伴い、ホログラム形態での顕現が可能になりました!』


「異世界転移って何!?」


『ご説明します!』


キューピクルは咳払いをした。ホログラムなのに。メガネをくいっと上げた。ホログラムなのに…陰キャ、まあいい、とりあえず話聞くか…


『マコ様は先ほど、猫を助けて交通事故に遭われました。その際、猫――正確にはオス猫のコタロウ様から、感謝の印として「オスの力」を授かる予定でした』


「オスの力?」


『はい。オス猫特有の、メスを惹きつけるフェロモン的な……まあ要するにモテ力です』


「モテ力!?」


『しかし!』


キューピクルが人差し指を立てる。


『転移時の誤変換により、「オスの力」は「オストキメトキス」という呪文に変換されてしまいました!』


「……おす、ときめ、ときす?」


『はい!「オス」「ときめき」「キス」の融合語と推定されます!』


「何その最悪の誤変換」


『効果を説明します!』


キューピクルがホログラムで何やらグラフを表示し始めた。


『「オストキメトキス」は対象に強烈なときめきを与え、好感度を一時的にMAXにする精神干渉魔法です! 射程10メートル、効果時間は対象の精神力により変動。ソースは……えーと……』


「ソースは?」


『『コード●アス』のギ●ス、『と●る魔術の禁書目録』の幻想殺し、『か●や様は告らせたい』の恋愛頭脳戦、他4,291作品のチート能力を統計分析した結果、「好感度操作系」は異世界攻略において最も汎用性が高いと判定されました!』


私は頭を抱えた。


「待って。ちょっと待って。情報量が多すぎる」


『要約しますか? AIですし、』


「して」


『異世界に来ました。チート呪文もらいました。頑張ってください♪』


「雑!! っていうか?チート?どこがよ!」


その時だった。


草原の向こうから、何かが近づいてくる。


馬に乗った、鎧姿の集団。


「あ、あれは……」


『検索完了。中世ヨーロッパ風異世界における騎士団と推定されます。接触パターンを検索、分析中……』


「え、ちょ、どうすればいいの」


『統計データによると、異世界転移直後に騎士団と遭遇した場合、67.3%の確率で「怪しい者め!」と言われ、42.8%の確率で牢屋に入れられます』


「入りたくない!!」


騎士団が近づいてくる。先頭の男が剣を抜いた。


「そこの者! 怪しい格好をしておるな! 何者だ!」


来た。来てしまった。


どうする。どうすればいい、私!?


逃げる? 無理だ、馬に勝てるわけない。

説明する? 『異世界から来ました』なんて信じてもらえるわけない。


『マコ様』


キューピクルが囁く。


『今こそ「オストキメトキス」の出番です』


「え?」


『あの騎士団長をときめかせてください。好感度MAXになれば、味方になってくれます』


「いやいやいや、そんな、初対面の人に、いきなり……」


『マコ様。これは恋愛ではありません。生き残りをかけた、サバイバルです』


騎士団長が馬から降りた。剣を構える。


「答えぬか。ならば――」


ああもう、やけくそだ!


私は騎士団長をまっすぐ見て、叫んだ。


「オストキメトキス!!」


瞬間。


私の体から、ピンク色の光が放たれた。


光は騎士団長を包み込み――なんか

ピンクの矢がささった?派手なエフェクト…


「……っ」


騎士団長の動きが止まった。


剣を取り落とす。


そして、その顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。


「な、なんだ、この感覚は……胸が、苦しい……押し潰すされそうだ…」


「え」


「お前を見ていると、心臓が破裂しそうだ……これが、これが恋というものか……!」


「ええええええ!?」


騎士団長が膝をついた。


「美しい……なんと美しいお方だ……どうか、どうか名前を教えてくれ……!」


『成功です、マコ様! 好感度、現在MAX! 攻略率98.7%!』


「いや怖い!! なんか怖い!!」


周りの騎士たちがざわめく。


「団長!? 団長どうされたのですか!?」


「わ、私は恋をしたのだ……この方に……」


「正気ですか団長!?」


カオスだった。完全にカオスだった。


次から次ともう、ついていけないよ。


でも、とりあえず、殺されそうな雰囲気ではなくなった。


私は息をついて――


「……あれ」


ふと、違和感を覚えた。


目の前で騎士団長が「愛している!」と叫んでいる。

普通なら、恥ずかしいとか、ドキドキするとか、そういう感情があるはずだ。


でも、なぜか。


――スッ。


胸の奥から、何かが「揮発」したような感覚があった。


まるで、炭酸が抜けたサイダーみたいに。


「……なんだろ、この感じ」


『どうかしましたか、マコ様?』


「ううん、なんでもない。……なんでもない、と思う…たぶん」


気のせいだろう。きっと。


私は頭を振って、目の前の状況に集中することにした。


……そういえば、と思う。


翔くんには「映画行かない?」の15文字すら言えなかったのに。


初対面の騎士団長には「オストキメトキス」って叫べるんだ、私。ちょっと普通言えないフレーズだよね、大切な事を肝心な場面じゃ大抵言えない…


――この時の私は、まだ知らなかった。


この呪文を使うたびに、私の中の「何か」が、少しずつ、すり減って、そして消えていくことを…


第1話「オス猫と誤変換と、人生最悪の告白未遂」


――了――


次回「騎士団長の愛が重すぎる件」


---


## キューピクルの異世界データベース


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### 〖今日の豆知識〗

異世界転生の死因として有名な「トラック事故」。


通称「トラック転生(トラ転)」は


2009年頃から流行したが、2019年頃に激減した。


本作の死因は猫。新しい。


### 〖補足〗

コタロウのモデル「シンガプーラ」は


世界最小の猫品種。体重わずか2〜3kg。


愛称は「小さな妖精」。なのにあの貫禄。


### 〖キューピクルの統計の信頼度〗

★★☆☆☆


(67.3%とか42.8%とかはノリで言ってます)


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次回もお楽しみに♪

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