正統派の怖いホラー映画!

「じゃ、『正統派の怖いホラー映画』で」


 映画なんて言うんじゃなかったと、後悔しながら、ミヤコダさんが選んだのはホラー映画だった。

 正統派のホラーということなら、まあ、怖いんだけど、さすがにもう慣れたし、大丈夫、きっと、そんなに怖くないもん、なんて思いつつ。



 その映画の主人公は母親を自殺で亡くした女子高生。親友一家に甘えながらなんとか生きている。

 最近、そんな彼女の仲間たちの間で流行っているヤバいゲームがあった。切断された人間の腕の剥製と握手をすると、死霊に憑依されて見てはならないものが見えるというゲーム。ただし、制限時間を超えたら恐ろしいことが起きる。そんな恐ろしいゲームを肝試しのように楽しんでいた主人公たちだった。しかし、主人公の親友の弟が制限時間をオーバーしてしまった。そして、彼に憑依したのは主人公の母親だった……

 

「……んぎゃっ!!」

「わぁっ』

「えええええ」

「いや、ちょっと、それはダメでしょ」

 ミヤコダさんは、映画の冒頭の方から驚き、怯え、小さな悲鳴を上げ続けた。

 

 死霊に取り憑かれた瞬間

 取り憑かれている間にしか見えない風景

 憑依を繰り返し、現実を失っていく主人公


 どう転がっていくのか、全く物語の先が予想できない。



 ミヤコダさんの偉いところは、どんなに怖くても、画面から目を離さないところだとカヌキさんは思っている。怖くて仕方ないので、ぬいぐるみを抱きしめるようにカヌキさんをぎゅうううっと横抱きにして、震え怯えながらも、ちゃんと最後まで画面を凝視している。

 カヌキさんは、そんなミヤコダさんが可愛くて仕方がないのだ。


「私もこれ初めて観たんですけど、怖いですよね、そして、すごく残酷。面白かった!」

 ふーっとカヌキさんは息を吐いた。

 主人公の少女が体験するのは、ただの恐怖だけではない。母を、支えてくれた親友たちを、恋を、全てを失っていく喪失感。

「あの腕の標本のオブジェとか売ってたら、ちょっと欲しいですね、……って、架乃?」


 ミヤコダさん、なぜか、ホラー映画で涙していた。まあ、よくあることだったりする。

 ホラー映画でこれだけ泣ける人も珍しいのだが、ミヤコダさんは、悲惨な目に遭うホラー映画の主人公に共感して泣いてしまうのだ。

 そんなミヤコダさんの情の厚さや感受性に、カヌキさんは改めて驚かされる。

「だって、ひどくない? 主人公ミアは、そりゃ、迂闊だったかもしれないけど、こんな酷い境遇に置かれるようなこと、何も、何にもしてないじゃない」

 ティッシュペーパーを取って、カヌキさんはミヤコダさんの目に当てる。擦らないように、優しく涙を吸い取る。


 全く、架乃、あなたって人は。



 そう思いながら、ホラー映画でも泣いてしまうミヤコダさんのことが、カヌキさんは大好きだ。

 そして、

 カヌキさんは、

 ホラー映画でミヤコダさんを泣かすのも大好きなのである。


「深弥、あなた、わたしが泣くって思って、これ見せたでしょ……?」

「さて、どうでしょうね」


 カヌキさんは、ミヤコダさんの綺麗な手を取って、ティッシュをゴミ箱に捨てた。

 でも、その手を離さなかった。





 この話の続きは最終話の『そして彼女の手の行き先は』になります。

https://kakuyomu.jp/works/822139843509623721/episodes/822139843515969611  

 B『ホラーじゃないけど痛くて残酷』、C『全然ホラーじゃないけど感動』に進まず、目次に戻るか上のURLに飛ぶかして、進んで下さい。お願いします。

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