先輩の王子様になりたい!

広井すに@カクヨムコン11(短編)参加中

先輩の王子様になりたい!

「……え? 豆柴ちゃん、何やってんの?」

「豆柴じゃないです! しばくるはです!」


 私、しばくるはには好きな人がいる。

 目の前の二年生の彩芽あやめ先輩。背丈は一八〇センチ。そのせいで腕と壁についた手はプルプル。一五〇センチ未満の私の目の前は胸。大きな胸。水色の学校用セーターがはち切れんばかりの胸が視界に入っているだけ……というなんともなっさけない挙動をしている。


「え、本当に……何してんの、豆柴ちゃん」

「だから、豆柴じゃないです! 柴です! ……昨日、彩芽先輩の家で遊んだじゃないですか」

「うん」

「だからっ! その……あの時見たドラマの真似してるんですっ!」

「は? ドラマ?」

「はあっ!? 忘れたんですか!? か、かっこいいって言ってたじゃないですか! ドラマのイケメンがやってる、壁ドンっ!」

「……ああ、あれ? えー豆柴ちゃん、なんであれの真似……」

「……だから、豆柴じゃないって! 柴! 柴くるはです! ……その」


 ……やっぱり、好きな人にはかっこいいって言われたいじゃないか。

 豆柴なんてからかわれて、彩芽先輩にはまわりをちょこまか動いてるだけの後輩なんて思われているのは嫌だ。

 

 守られてるだけなんて、嫌だ……。

 

 昨日聞いた男子生徒の雑談を思い出す。『彩芽先輩はおっぱいも大きくて、顔も可愛いけど、背がデカすぎて無理』なんて……。大きい声で噂してた。

 

 染めたミルクティーみたいな色の髪と、ゆるく巻いたサイドポニーテールも好き。

 薄化粧とピンクの色付きリップがよく似合ってるのも好き。

 困り眉で、垂れ目なところも好き。

 飄々としててクラスでは背丈をいじられてるけど、本当は傷ついてるところ。

 少女漫画とか恋愛ドラマとかが好きで、結構ロマンチックなところ。

 優しいところ。コンプレックスの大きい背も。

 全部守れたらいいのに……。


 なんて。燻っていると。


「豆柴ちゃんは突拍子もないことするね〜」

「わっ!?」


 彩芽先輩にお姫様抱っこされた。


「何するんですか!? おろしてっ」

「かっこつけなくても、あたしは豆柴ちゃんが大好きだよ。小さくて可愛いところ、ちょっと茶髪のショートカットも、まろ眉気味でくりくりした目も、素直じゃないけど気遣い屋なところもね」

「え……」


 彩芽先輩と目が合う。

 見たことがないような真剣な顔だったので、思わず目を逸らしてしまった。その瞬間、風が勢いよく吹く。


「え、ちょっと!」


 そのまま彩芽先輩は走り出した。

 待って! 周りがめちゃくちゃ見てるんですけど!?


「何言われたってヘーキ! だって豆柴ちゃんがいるもんね!」

「え、どこまで行くんですか!?」

「わかんないっ、あははっ」

「は、走んないで! おろしてー!」

「いやでーす」


 ……先輩の王子様になる日までにはまだ遠い、かもしれない。

 


 

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