鍵の運び屋
実里
繰り返し
「これで音楽の授業を終わりにします。礼」
「ありがとうございました」
日直の声。外からは一足先に休み時間になっていた下級生の声が聞こえる。
「私ここからニューヨークへ行くのよ」
「えー!せんせー旅行?いつ行くんですかー?」
談笑する音楽教諭とクラスメイト。
そんな中、
「思い出して!シオンは毎年記憶を消されてここに来るの!同じ任務をこなすために…」
私は親友に詰められていた。
授業が終わると早々に私の側にやってきた親友。
私には親友が何を言っているのか理解が出来ない。
「いい?シオン、今から鍵を取りに行くよ!
そしてあの人に渡さないと。はやくしないと飛行機が…急がないと。今から職員室に行って、シオンが…」
はぁ。
私は親友の頭がおかしくなってしまったのかとため息をつく。
「何言って…」
あれ…?
急に視界が揺れる。
「シオン?大丈夫?まだ思い出せない?」
ふらついた私を親友が支えてくれる。
思い出すとは、なんのことだろうか。
「あーうん、大丈夫」
私は答える。
「よかった。それでシオンが先生達と話して気を引いている間に私が鍵を取って、」
「あ、…」
再度ふらついた私は、親友に支えられる。
その瞬間、頭の中に何かがフラッシュバックした。
こっそり職員室に忍び込む私達。鍵を取る親友。走る私。走る。走る。追いかけられる。
そうだった。私はいつだったか、既にこの出来事を経験していたのだ。
「その鍵をシオンに渡すから、その後シオンが、」
色々な事が頭を駆け巡る。
確かどこかへ運ぶはずだ。確か…
音楽室だ!
「音楽室へ持って行く!」
そう親友が口にするのとほとんど同時に私も心の中で言う。
「分かった、思い出したよ」
鍵を音楽室へ運べば問題ないはず。
私は親友と目を合わせ頷く。
「よし!行くよ!」
頑張ろうね、と親友とハイタッチした。
「失礼しまーす。あ、先生、少しお話しいいですか?」
私は先生の気を引く為に話しかける。
するり、私の後ろを親友が通りぬける。
「次の授業なんですけど…えっと…」
焦る。何も話すことを決めていなかったため口篭ってしまう。
「あっお前!!」
私と話していたはずの先生が声を上げた。
「シオンごめん気付かれた!!これっ!」
親友が私に鍵を投げる。
ギリギリでキャッチした私。
「走ってー!!」
私は親友をおいて、音楽室へ走る。
何故だ。どうやら教師は私達を止めようとするらしい。
後ろからは教師。
理科室。家庭科室。
近くの教室からも止めようとした教師が追いかけてくる。
「待ちなさい!」
また別の教師。私は階段をかけ上がる。音楽室はもう目と鼻の先。
しかし。
…どうしよう。ここにも先生が…
目の前には音楽の教師。
逃げないと…いや、違う。
記憶を呼び覚ませ。
私の頭はフル回転だ。
(はやくしないと飛行機が…)
(私ここからニューヨークへ行くのよ)
この人に渡せば良いんだ!
ようやく気付いたというのに、私の視界はうっすらとぼやけてくる。
「シオン!」
息を切らしながら走ってくる親友。
どんどん白くなる私の視界。
渡さないと…!
私は親友に向かって鍵を投げた。
窓から差し込む朝日。
さっきまでのは夢…?それとも…
私はほほえむ。
親友は無事だっただろうか。
ちゃんと、渡せただろうか。
ふと疑問に思う。
私は毎年あそこに呼び出されているの?
…来年も?
「紫苑(しおん)~!そろそろ起きないと中学遅れるよ〜!」
「はぁーい」
思えばあそこは小学校だった。
親友は私と同い年のはず。
彼女は、ずっと小学校を卒業できないのだろうか。
あれ?あの子、名前なんだっけ?
親友の名前が、顔が、思い出せない。
あの子は…だれ?
鍵の運び屋 実里 @Mino_Ri
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