bar DESCEND ~沈まる場所~

蛯永 終

プロローグ 沈黙が似合う場所

 そこは、裏通りにひっそりと佇む古いバー。

 ネオンの反射が届かない路地の奥、扉を開けた者だけが知っている空間。

 bar DESCENDディセンド


 扉には、酒樽のような湿った染みと、アルコールの甘い匂いが漂っている。

 店内には重く伸びる木のカウンター、緩やかに流れる古いジャズ。

 そして、カクテルが注がれる音、無色透明な時間がそこにあった。


 バーテンダーの名は清水。

 踏み込むことはしない。ただ、言葉を一つ二つ、グラスに添える。

 それだけで、訪れた客は、誰もが何かを置いていく。


 泣けない人、怒れない人、笑われたくない人──

 何かを抱えた客が、夜更けのこの場所に、導かれるように訪れる。

 懺悔のためでも、明日のためでもなく。


 グラスの中で氷が音を立てるたび、今夜も、

 誰かの「話したくなかったこと」が、ゆっくりと、静かに沈んでいく。

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