再会
数年後、私は広告会社に勤務していた。今では知り合いのバーなどで歌わせてもらったり、ネットに『歌ってみた』を投稿したりなど、歌の活動を続けている。
あの卒業式以来、玲先輩とは会っていない。大学も偏差値の高い大学に行ったため、とても追いかけられなかった。音楽をやっていたらまた会えるかもしれない。そう思い、歌を続けている。今日はバーで歌う約束をしていたので、飲み会などを断り足早にバーへ向かう。
「すみません遅れました〜」
そう言って入ると、いつものバーのマスターと常連客がいた。そこのバーは少し広めで小さなステージまである。と言っても簡易的なもので、少し段差があるだけのものだ。ただそこには立派なピアノが置かれていた。マスターは弾けないらしいがピアノの音が好きなので、たまにお客さんに弾いてもらうために置いているらしい。
「愛華ちゃんこんばんは。今日も歌ってくれるのかい?」
常連さんに話しかけられる。
「こんばんは佐々木さん。今日も歌いますよ。」
「そういえば今日は知り合いがピアノを弾きに来てくれるらしいんだ。もうすぐ着くって」
「そうなんですか。その方はピアノお上手なんですか?」
「上手いよ。知名度はまだないけど、最近プロとして活動を始めたらしいんだ」
「へぇ!凄いですね!」
その時お店のドアが開いた。
「ああ、来た来た。彼だよ。」
「…………え?玲先輩……?」
「…………え、愛華?」
そこには昔より大人っぽくなった玲先輩がいた。
「プロのピアニストって玲先輩!?」
「あっ、ああ、バーでよく歌ってるかわいい女の子って愛華だったのか」
「かわっ!?」
思わず顔が赤くなる。マスターと常連客の方を見ると
「愛華ちゃんは可愛いんだから自信もって」
と笑顔で言ってくる。
「……歌、続けてたんだな。」
「……はい」
久々に会った先輩との間には妙な緊張感があった。
「あー、えっと、」
彼は気まずそうに頭の後ろをかいている。
「お二人さん、ピアノと歌、頼んでもいいかい?」
バーテンダーに言われる。
「「あっ、はい!」」
ステージの上に立つ。近くのピアノには玲先輩が座っている。バーの暖かい照明と静かな空間にピアノの音が広がっていく。その音に思わず笑みが零れる。懐かしい。高校生のときよりも技術は格段に上がっているが、根っこが昔のままで暖かい。弾くときの顔も昔を彷彿とさせる。歌っている最中も彼との思い出がフラッシュバックのように思い出させる。歌うことが楽しいと教えてくれたあの音楽室や、緊張に震えていた時に先輩が優しく励ましてくれた文化祭のステージ。当時のことがまるで昨日のことかのように鮮明に思い出される。歌い終わる頃には自然と目に涙が浮かび上がった。拍手喝采の中、また先輩と歌えたことを嬉しく思って先輩の方を見ると、彼もこっちを見ていたらしく目が合う。
演奏が終わってステージから降りる。
「まだ泣き虫だったのか?」
からかうような笑顔で言われる。
「……泣き虫じゃないです。久しぶりに一緒に演奏出来て……、とても嬉しかったし、楽しかったです。」
「……俺もだよ。」
音楽を、音を通じてまた先輩と繋がれたことが心の底から嬉しかった。
席につき、カクテルを注文する。隣には玲先輩が座り、先輩は別のドリンクを頼む。
「びっくりしたよ。知り合いからずっと聞いてた歌の上手い女の子が愛華なんだもん。大人になったな。」
私の方を見てしみじみと言う。
「私の方こそ驚きましたよ。急に現れるから。しかもプロって。」
「まだ無名だけどな。」
その後も他愛のない話をする。会社がどうだとか美味しいお店があるだとか。久々に先輩と話せてとても嬉しかった。
「そういえば先輩って有名大学行ってましたよね。そこからプロのピアニストって。親は許してくれたんですか?」
「いや、はっきり恥さらしって言われたよ。俺もうんざりしてたから家を出て、ピアノの勉強を始めた。」
「大変でしたね。」
「いやそうでも無いさ。親と離れられてスッキリしたよ。そうだ、その後もう帰るか?送ってくぞ」
「いやそこまでしてもらわなくても……」
「いいから。先輩の好意には甘えるもんだぞ」
「……ありがとうございます。」
バーを出たあと、少し散歩することになって海の見える公園に来た。
「そういえば気になってたんだけどさ、……その、、」
「?どうしました?」
彼は目を逸らして口を開けたり閉じたりしている。
「……愛華って、、彼氏、とかいるのか?」
「え?」
「ああっいや別に変な意味じゃないぞ」
「あ、はい。いませんよ。」
「ほんとに……?」
彼が嬉しそうな顔をする。そこから少し慎重な顔立ちになる。
「……俺さ、親にピアノ反対されたって言っただろ?まあそりゃ仕方ねぇよなって。頭いい大学に行ったっていうのにその学力を生かさないってさ。けどこれは俺の人生だし、俺の好きなように生きたかった。別に学力は持ってて損はないしさ。そのピアノを続けるモチベがなんだったかわかるか?」
突然質問を振られあたふたする。
「えっと、、モチベか、、なんだろ」
そんな私を見て彼は微笑む。
「愛華だよ。」
「……え?」
「愛華がまだ音楽やってるかもって思ってずっとピアノ続けてたんだ。また一緒に演奏したくてさ。ここまで長かったけど、また一緒に演奏できてよかった。」
先輩がピアノを続けている理由が私だと言われて、正直嬉しかった。私も先輩の事を思い続けて歌を続けてきたから。
「俺、これからもずっと愛華と一緒にいたい。さっき再会して改めてそう思ったんだ。だから…俺と付き合ってください」
そう言って彼は私に手を差し出した。震えるような手で、まっすぐに。顔は下を向いてしまっているので見えない。私は今まで彼は尊敬できる優しい先輩だと心の中で言い聞かせていた。好きという気持ちに気づいてしまうと、関係性が壊れてしまうかもしれないから。だから隠してきたのに。涙が溢れ出す。今日は泣いてばかりだ。
「……私で、よければ」
震えた声でそう言って彼の手を掴む。
「……ほ、ほんとに?」
彼は信じられないと言いたげな顔で見つめてきた。段々顔が笑顔になっていく。
「本当に嬉しいよ。って、また泣いちゃった?」
「だってぇ……」
「ははっ、やっぱり泣き虫だな」
そういいながら昔のように涙を拭ってくれる。数年越しの再開。私たちは恋人同士になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます