手紙

それから一年以上が経ち、私は高校2年生になっていた。3年の先輩達はもうすぐ卒業を迎えようとしていた。

 あの文化祭以来、玲先輩は一度も音楽室に来なかった。私は初めの頃は行っていたが、玲先輩ともうここで会うことがないと思うと辛くなり、通うのをやめていた。


「もうそろ卒業式だね〜。先輩が居なくなんのまじ寂しいんだけど。」


 友達の佳奈がそう零す。


「確かにね。」

「愛華って1年の時いつも一個上の先輩といたよね。卒業式の時になんかあげたりするの?」

「あげるって?」

「うちは仲良かった先輩に部活で寄せ書きとか書くよ。特に仲良かった先輩にはまた別で手紙でも書こうかなって」

「手紙……。で、でも一年以上会ってないし、先輩も迷惑かもしれないし、、」

「迷惑なんかじゃないよ!愛華、これが最後のチャンスだよ。」


 佳奈は私の心を見透かしたような目で言う。


「チャ、チャンスって……」

「このまま後悔してもいいの?」

「…………」

「愛華の好きにしていいよ。どんな選択をしても、私は愛華のこと応援してるから。」

「……ありがと、佳奈。私、頑張るよ。」


そう言うと、彼女は私に笑顔を見せてくれた。


「頑張れ!愛華!」


 その日の夜。ご飯を食べている時も、お風呂に入っている時も、ベッドに入った後も、佳奈の「このまま後悔していいの?」という言葉が何度も頭の中で繰り返し響いていた。何もしなければ絶対後悔する。だから今までの感謝をちゃんと伝えたい。そう思う気持ちが大きくなり、ベッドから起き上がった。

手紙を書こう。そう決心したがなかなか手が進まない。色んな感情が溢れ出し、ぐちゃぐちゃになって、言葉にまとまらなかった。少し心を落ち着かせ、1行目を書き出すと自然と手が進んだ。


 『玲先輩へ

 初めて玲先輩に会った時から、先輩のピアノが大好きでした。私が不安でどうしようもなかった時も、先輩のピアノの音と微笑んでくれる先輩の笑顔で、落ち着けました。いつも私を見守ってくれてありがとう。先輩がいなかったらきっと私は何も出来なかった。先輩のおかげで歌うっていう好きな事を見つけられました。最初は恥ずかしくて歌うのがあまり好きじゃなかったけど、先輩に褒めて貰えた今では、歌うことが大好きです。本当にありがとう。またいつか一緒に演奏しましょう。』


 そう言葉を綴っていると、私の頬が濡れていることに気づいた。


「……?」


 私は泣いていた。この涙はきっと悲しみの涙じゃない。ただ感謝の気持ちが溢れだしてしまって、止まらなくなったんだ。自分の文章を読み返した。


「これじゃ全部は伝わらないかもだけど」


佳奈の最後のチャンスという言葉が頭に浮かんだ。そうだ、これが最後。このまま後悔したくない。「ありがとう」の気持ちを伝える。私は卒業式当日に渡す決心を固めて、手紙を封筒に入れた。

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