この気持ちはどこへやら

名月 楓

この気持ちはどこへやら

潤んだ目で転びそうになりながらも、家へ帰る気にもなれず、彼女はいつもの河川敷に腰掛けた。夕陽もしばらくすれば彼女を照らさなくなるだろうに、帰るそぶりも見せなかった。私も隣に腰掛ける。寄り添うように、慰めるように。

彼女が涙を流す理由は、少し心当たりがあった。ここに訪れるのは、大抵恋人とうまくいっていない時だ。彼女は後悔を口にする。あの時ああ言わなければ、もっとこうしていれば。けれどその原因はわからないようで、次第に行き場のない疑問を口にするようになる。もはや自分を苦しめるためだけになってしまった言葉を吐き切ってから、彼女は沈黙する。彼女の心は、いつも以上に傷ついているようだ。

わざとらしいくらい優しく、尋ねるような声を出す。


何かあったの?


「……今日ね、別れちゃったんだ」


そっか……大変だったね


「もう、なんでかわかんないや、あはは……」


きっと、仕方なかったのかもね、上手くいかないことだってあるよ


「ありがとう、慰めてくれて」


いいんだよ、これくらいしかできないもん


彼女の顔は依然晴れない。愛してやまない人が自分から離れるということの辛さは、私もわかっていた。いや、私の場合は、恋人という立場を奪われたとしても、こうして隣にいられるわけだけれど。愛する人のそれまた愛する人の顔を、私は知らない。けれど、彼女にこんな表情をさせるのだ、きっと醜悪な笑みを浮かべるような人物なのだろう。そう自分に言い聞かせ、彼女の隣で念ずる。

間違ってもヨリを戻したりするな、そんなやつ忘れてしまえ。


「こんな苦しい思いをしてもさ、誰かに愛してもらいたいだなんて、変かな」


そんなことないよ、誰だって愛されたいもん


「ただ、愛する人を大切にして、大切にしてもらいたいだけなのにね」


ここにいるよ、あなたを愛して大切にするって思っているよ


彼女は少し顔をあげ、涙を拭う。そして優しく私の頭を撫でる。きっと感情を吐露することで落ち着いたのだろう。バックを肩にかけて立ち上がる。制服のスカートを軽く叩くと、その影が視界を覆う。気がつくと光の素は街灯しかなくなっていた。

まさに灯台下暗し、だ。いつになったら彼女はこの恋心に気づくのか。もしくは同性だからと意識の内にも入らないのだろうか。まあそんな考えは全て滑稽で、答えなんてわかっているのだけど。


「じゃあね、また」


彼女は軽く手を振って帰って行く。離れて行く背中に、さようならの声をかける。


「みゃあ〜」

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この気持ちはどこへやら 名月 楓 @natuki-kaede

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