おとこの娘しかいない世界に転生してしまいました
Wright/__
おとこの娘しかいない世界に転移してしまいました
放課後の教室で、俺――
慌てて教室を飛び出し、階段を駆け下りようとした瞬間、足を滑らせて――気づいたときには、真っ白な空間に立っていた。
「あれ? 俺、死んだ?」
周囲を見回すと、そこは上下左右の区別もつかない純白の空間だった。床があるのかないのかも分からないが、なぜか立っていることはできる。現実感のない状況に
小学生くらいの背丈で、ツインテールの金髪に赤いリボン。フリルのついた白いワンピースを着た彼女は、俺を見上げて優しく微笑んだ。
「こんにちは。転移者さん、ようこそ異世界転移システムへ」
少女の声は柔らかく、どこか神秘的な響きがある。俺は混乱しながらも、とりあえず状況を把握しようと質問した。
「あの、俺本当に死んだの? これって異世界転移ってやつ?」
「はい、その通りです。あなたは階段から落ちて………。でも安心してください。ここは転移管理局。これから異世界に転移することができます」
少女は丁寧に説明してくれる。その穏やかな態度に、俺の混乱も少し落ち着いてきた。
むしろワクワクしてきた。
「で、俺はどんな世界に転移するの? 魔法とか使える? チート能力とかもらえる?」
「それでは説明いたしますね」少女はパチンと指を鳴らすと、空中に半透明のパネルが出現した。
「あなたが転移する世界は……『おとこの
「は?」
思わず間抜けな声が出た。おとこの娘? あのおとこの娘? 俺の脳内に様々なイメージが駆け巡り、思考が追いつかない。
「見た目は完全に女の子なのですが、実は男の子という、あの存在ですね。その世界には、おとこの娘しか存在しません」
少女は淡々と、そして丁寧に説明を続ける。俺の動揺を気遣うように、少し間を置いてから付け加えた。
「最初は戸惑うかもしれませんが、貴重な体験になると思いますよ。それでは、転送いたしますね」
♦♦♦♦♦
気づくと、俺は石畳の道に立っていた。周囲には中世ヨーロッパ風の建物が立ち並び、行き交う人々の姿が見える。そして――全員が、美少女だった。
いや、あの少女の話が正しければ、正確には美少女の姿をした男だ。
ロングヘアーの優雅な立ち振る舞いの人、ショートカットで活発そうな人、ツインテールで可愛らしい服を着た人。どの人も完璧に女の子に見えるのに、この世界では全員が男性だという。俺の常識が音を立てて崩れていくのを感じた。
「すごい……本当におとこの娘しかいない…のか…?」
呆然と街を歩いていると、一人の少女――いや、おとこの娘が俺に声をかけてきた。
「あの、もしかして旅の方ですか? 私、この街の案内をしているルーシアと申します」
彼女は栗色のロングヘアに、清楚な白いワンピースを着ていた。声も仕草も完全に女性そのもので、とても男性だとは思えない。俺は混乱しながらも、なんとか返事をした。
「あ、はい。俺、
「まあ、では私が街をご案内しますね。こちらへどうぞ」
ルーシアに案内されて街を歩くうちに、この世界の基本情報が頭の中に流れ込んできた。ここでは誰もが生まれながらにおとこの娘で、それが当たり前の社会。男女の区別という概念そのものが存在せず、全員が可愛らしい外見と女性的な仕草で生活している。
カフェでお茶をしながら、ルーシアが説明してくれた。
「この世界では、誰もが自分らしく美しくあることが大切だとされています。外見を磨き、優雅な立ち振る舞いを身につけることが、社会的な美徳なんですよ」
「でも、みんな……その、男なんだよね?」
「ええ、そうですよ。でも、性別なんて
ルーシアはニッコリと微笑む。その笑顔があまりにも可愛らしくて、俺の脳は完全に混乱状態に陥った。
♦♦♦♦♦
この世界での生活が始まって一週間。俺の精神は限界に近づいていた。
朝起きると、隣の部屋に住むメイド服のおとこの娘が朝食を作りに来てくれる。学校に通うことになったのだが、学校に行けば、セーラー服やブレザーを着たおとこの娘たちが、キャッキャと楽しそうに話している。放課後は喫茶店で、フリフリのエプロンをつけたおとこの娘がケーキとお茶を運んでくる。
どこを見ても、誰を見ても、完璧に可愛い女の子の姿。でも全員男。この矛盾が、俺の脳を確実に破壊していった。
「
クラスメイトのアリスが心配そうに声をかけてくる。彼女――いや彼は、ピンクのリボンをつけた金髪ツインテールで、まるでアニメから出てきたような可愛らしさだ。
「いや、なんでもない。ちょっと疲れてるだけ」
「そう? じゃあ今日の放課後、一緒にクレープ食べに行かない? 新しいお店ができたの!」
アリスの無邪気な笑顔に、俺の心臓がドキリと跳ねる。これはマズい。完全にマズい。俺の中で何かがおかしくなり始めている。
その日の夜、ベッドに横になりながら、俺は天井を見つめた。元の世界に戻りたい。でも、戻れるのだろうか。そもそも、戻ったとして、俺はまともな精神状態を保っていられるのか。
♦♦♦♦♦
ある日の夜、眠りにつこうとしたとき、突然部屋が白い光に包まれた。目を開けると、そこには転移時に会ったあの案内人が立っていた。
「こんばんは。お元気でしたか?」
「あ、あなたは……!」
「少し様子を見に来ました。この世界での生活はいかがですか?」
彼女は穏やかな表情で、俺の部屋を静かに見回している。
「正直に言うと、精神的にかなりキツいです。元の世界に戻れるんでしょうか?」
「そうですね」案内人は優しく微笑んだ。
「実は、もうすぐ戻れますよ。あと三日で転移期間が終了します」
「本当ですか!?」
「はい、本当です。ただ……」彼女は少し申し訳なさそうに続けた。
「この世界での経験は、あなたの心にしっかりと刻まれます。元の世界に戻っても、ここでの記憶は消えません」
「それは……どういう意味ですか?」
「人は経験によって変わるものです。あなたがここで見たもの、感じたことは、あなたの一部になります。それでは、残りの三日間を大切にお過ごしください」
そう言うと、案内人は光とともに消えていった。残された俺は、不安と期待が入り混じった気持ちで、残りの日々を過ごすことになった。
♦♦♦♦♦
三日後、約束通り俺は元の世界に戻ってきた。気づくと、病院のベッドの上にいて、周囲には家族とお医者さんが集まっていた。
「意識が戻った! 性癖さん、自分の名前分かりますか?」
「はい……大丈夫です」
どうやら一週間ほど意識不明だったらしい。でも不思議なことに、体に大した怪我はなく、医者も首を傾げていた。
でも、俺は憶えている。あれは夢なんかじゃなかった。
退院して学校に復帰した日、友人たちが集まってきた。
「
「本当に心配したんだぞ」
「一週間も意識不明だったんだって? 何か見た?
友人たちの言葉に、俺は少し躊躇した後、意を決して話し始めた。
「実はさ……異世界転移してたんだ」
「はあ!? マジで?」
「嘘だろ?」
「いや、本当なんだ。俺、あの一週間、別の世界にいたんだよ」
友人たちは半信半疑の表情で俺を見つめる。俺は続けた。
「その世界がさ、おとこの
しばらく沈黙が続いた後、友人の一人が吹き出した。
「何だよそれ! 意味分かんねえよ!」
「
みんな笑っているが、俺は真剣だった。本当に、俺の中の何かが変わってしまった。街を歩いていても、ふとした瞬間に「この人がもしおとこの娘だったら」なんて考えてしまう。アニメを見ていても、男性キャラクターの女装シーンで妙にドキドキする。
元の世界に戻れたのは良かった。でも、俺の性癖は完全に歪んでしまった。
それから数ヶ月、俺は新しい自分と向き合いながら生活している。友人たちには未だに異世界転移の話を信じてもらえないが、それでもいい。これは俺だけの秘密。俺だけが知っている、あの不思議な世界の記憶。
たまに夢の中で、あの世界の景色を見ることがある。石畳の道、中世風の建物、そして可愛らしい笑顔のおとこの娘たち。目が覚めると、少しだけ寂しい気持ちになる。
そして俺は今日も、この歪んでしまった性癖と共に、普通の高校生活を送っている。
おとこの娘しかいない世界に転生してしまいました Wright/__ @Wright__
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます