駄作の傑作 - 強引な聖章
@hiyoriaki123
プロローグ
十七歳。現在、筋金入りの怠け者。
本来なら将来を憂うべき状況だが、俺の感想は「どうでもいい」の一点張りだ。
学校で人気者だった試しはない。非モテの原因を見た目のせいにしていたが、実は違う。現実の人間関係よりも、部屋の隅で脳内妄想に耽っている方が楽だったからだ。
馬鹿げている? かもしれない。
だが、その妄想だけが俺の背筋を伸ばし、「作家」という身の程知らずな夢に繋ぎ止める唯一の命綱だった。
そう、ずっと夢見ていた。
だが、書き出しの一行目が思い浮かばない。興味がないわけじゃない。ただ、圧倒的に集中力と根気が足りないのだ。脳の欠陥を疑ったこともあったが、結局はただの甘えだったのだろう。
執筆スタイルはいつも同じだ。
意気揚々と書き始め、世界観を広げ、設定の矛盾に気づいた瞬間――**エタる**。
面倒くさくなって放り投げる。その繰り返し。
客観的に見れば、俺の人生は「未完の駄作」そのものだ。
だが、一度だけ例外があった。
十四歳。厨二病の全盛期。
脳内に溢れる「最強のアイデア」と、流行りの執筆支援AIという武器を手にした俺は、無敵だった。語彙力のなさをテクノロジーで補えば、傑作が書けると信じ込んでいたのだ。
整合性など知ったことか。キーボードを叩き続け、原稿用紙換算で二百枚以上。
自分は文豪の生まれ変わりか? 次世代の神作家か? 本気でそんな全能感に酔いしれていた。
今、その作品が読み返せるか?
答えは断固としてNOだ。
恥ずかしいからじゃない。死にたくなるからだ。
あのフォルダは封印指定だ。少しは文章力がマシになった今、十四歳の俺が垂れ流した**黒歴史(ポエム)**と向き合うなんて、精神崩壊と同義だ。
『さて……どうするか』
現実逃避はここまで。妹を塾へ迎えに行かなければならない。
PCから離れ、通りを渡り、十五分歩いて回収し、また部屋に戻って作家ごっこを再開する。
単純作業。何千回も繰り返したルーティン。
だからこそ、油断した。
信号もろくに見ずに足を踏み出し――。
トラックには、慈悲なんて機能は搭載されていなかったらしい。
**キキィィィィィッ――ドンッ!**
視界がブラックアウトする。
走馬灯を描写する暇すらない。
俺は、あっけなく死んだ。
……
目を開けると、そこは悪趣味極まりない空間だった。
「不気味」以外の言葉が見つからない。
数回瞬きをするたび、壁のテクスチャがバグったように切り替わる。
床など酷いものだ。大理石と土が半々かと思えば、フローリングと絨毯がパッチワーク状にバグっている。
そして部屋の中央には、洞窟とも大聖堂ともつかない背景の中に、場違いに豪華な黄金の玉座が鎮座していた。
『なんだこれ……背景素材の読み込みエラーか?』
玉座には誰かが座っているが、ライティングが最悪だ。
真っ白な部屋にリンゴを置いたような強烈なコントラスト。照明係はクビにした方がいい。
俺は目を細めながら、恐る恐る近づいた。
鎮座していたのは、この世の解像度を超越した美少女だった。
毛先が金色に輝く漆黒の髪。作り物めいた完璧な目鼻立ち。
語彙力のない素人作家が、描写を放棄して単に「絶世の美女」とだけ書き殴ったような、テンプレ通りの美しさ。
すると突然、彼女は何の前触れもなく笑い出した。
「鈴を転がすような」と形容される、クリスタルな笑い声。
だが次の瞬間、真顔になる。
冷徹な視線。
かと思えば、即座に満面の笑みで手を振ってくる。
情緒不安定? いや、まるでAIが感情パターンをランダムに出力しているような不気味さだ。
「お会いできて光栄ですぅ! 我が主(マスター)!」
『は……?』
さっきまでの殺意は何だったんだ?
チャンネルを高速で切り替えるように、彼女の表情(フェイシャル)モーションが目まぐるしく変わる。口角、眉、頬の筋肉――それらが別々の生き物のように蠢いていた。
「わ、我が……主……? な、何の話です……か?」
俺の口から出たのは、情けない敬語と吃音だった。
「残念ながら……いえ、待って」
彼女はピタリと動きを止め、空中の見えない台本を目で追うような仕草をした後、ビシッと俺を指差した。
「喜ばしいことに! つまりポジティブな意味で! 間違いなく……」
指先がプルプルと震えている。
「貴方様なんですよ……私を『設定(つく)』ったのは」
俺が、こいつを……?
ありえない。俺はただの、書いては捨てるを繰り返す三日坊主のワナビだ。
こんな美女を……いや待て。
この支離滅裂な性格、どこか覚えがある。
「深夜一時三十四分に開いていた『新規ドキュメント』を覚えていますか? 貴方様は私の名前に続けて『美女』とだけ書きました。性格も、強みも、弱点も設定せず! ただ『美女』とだけ! それがどういうことか分かりますか!? **キャラ設定がペラッペラなんですよッ!**」
鼓膜が破れそうな絶叫。
「え……? いや、その……つまり、俺が書いたから……君が実体化したと?」
「貴方様には、あの書きかけの**草稿世界(ゴミ・ドラフト)**に転生していただきます」
質問は完全にスルーされた。
「貴方の使命は魔王討伐です! イェーイ☆」
彼女は棒読みで歓声を上げた。
「はあ!? 待ってください、魔王って……あの、俺みたいな死に方をした奴が? 魔王を倒す……?」
「拒否権はありません。嫌なら地獄行きですので。あ、ちなみにその地獄も貴方がその草稿(ドラフト)で作った設定ですよ、**ダーリン**♡」
今度はダーリン呼ばわりだ。
状況を整理しろ。
不慮の事故死に、目の前には情緒不安定な女神(仮)。トドメは魔王討伐の命令だ。
『……俺、こんな安っぽい**「なろう系」**のパクリ小説書いてたのか?』
「もっとも」
初めて、彼女の表情が「純粋な侮蔑」で固定された。
「この世界、貴方の**脳内設定(オリジナル)**とは似ても似つかない惨状になっていますけどね。よくこれで世界として成立していると感心しますよ。おめでとうございます、貴方様は正真正銘、**クソ世界(バグ・ワールド)**の創造主です」
それは褒め言葉か? 絶対に違うな。
「ここは私の管轄ですので」
雷鳴のような怒号が轟く。
「四の五の言わずに行ってください! 『もしも』とか『考察』とか不要です! 魔王を倒した時のみ、天国へのアクセス権を付与します!」
「ちょ、ちょっと待って! せめて何かアイテムとか……!」
チート能力も、初期装備も、生存マニュアルさえもない。
ただ、乱暴に背中を押されただけだった。
「うわあああああっ!?」
俺の体は虚空へと落下していく。
暗闇に飲み込まれながら、脳裏に浮かんだのは一つの問いだけだった。
『俺が何をしたっていうんだ?』
ただ、十四歳の頃に自分が天才だと勘違いしていただけの、痛い高校生だっただけなのに。
『……待てよ。あの頃の俺、他にはどんな**ご都合主義設定(ふざけたこと)**を書いてたんだ?』
その答えを、俺は嫌というほど思い知らされることになる。
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