手数を増やしても、滅する特別視。

エリー.ファー

手数を増やしても、滅する特別視。

 このまま特別でありたい。

 世界の中心にいる私でありたい。

 全てを尽くして。

 全ての手段を尽くして。

 全ての手段を尽くして尽くして。

 それでも。

 私は、私が特別であることを疑ってしまう。

 自分の手が、どこまで届くのかを気にしている。

 陽気な音楽と共に踊っているのに、それでも、寂しさが横たわる。

 足身に絡みつくのは、自分の影ではなく他人の影である。

 このまま消えていく自分の姿を社会に反映させたくない。

「総理、どうしますか」

 分からない。

 そう、答えたかった。

 日本は、もう終わってしまう。

 難しい舵取りの果てに、誰がやっても失敗する。

 そんな状況。

 総理の責任をどこかに捨ててしまいたい。

 しかし。

 総理であり続けたい。

 特別でありたい。

 総理という椅子はそれほどまでに魅力的であり、私の価値を何倍にも跳ね上げる。

 政治という七面倒臭いものを。

 どこかに。

 破棄破棄。

 綺麗になった心と体で、自由でありたい。

 しかし。

 もちろん、特別な私でありたい。

「総理、何を考えていらっしゃるのですか」

 言えるわけがない。

 どうでもいいことなのだから。

 言ってもいいのかもしれない。

 どうでもいいことなのだから。

 私よりも総理に向いている人間がいるのだろうか。

 ふと、考える。

 答えは直ぐに出た。

 いない。

 いるわけがないのだ。

 ほとんどの人間が総理という椅子を前に尻込みをした。

 結局、派手な肩書を手にしないように立ち振る舞いながら影は薄く、しかし、社会的には成功者という立場で生きていきたい者ばかりなのである。

 そう。

 そういう意味では。

 残念ながら、私は総理に向いていた。

 結果を出して称賛されたいし。

 誰かも褒められたいし。

 光り輝く総理という肩書が欲しいし。

 自分の人生を肯定したいし。

 だから。

 私が総理になったのは自然なことだった。

 結果は出ている。

 もちろん、良い結果だ。

 日本は幸福度が上がったし、皆、楽しく暮らしている。

 これは事実である。

 私は、国民から望まれた存在となったのだ。

 総理と言えば私であり、私と言えば総理である。

 何か文句があるだろうか。

 いや、ないはずだ。

「総理、御決断を」

 私が決めねばならない。

 日本の行く末を、私の手で決めなければならない。

 このスイッチ一つで全てが決まる。

「どうか、お願いします」

 取り返しのつかないことが起きるかもしれない。

 しかし。

 それでも行動しなければならない。

 スイッチに指を乗せる。

 滑らかである。

 まるで、太った犬か猫の腹のようであった。

 私は自分の指がスイッチに食べられていることに気が付いた。

 そして、急いで指を見る。

 何も起きていない。

 ただし、指、いや、手が汗をかいていた。

 自分の手ではないかのようである。

 スイッチが蠢いているように感じる。

「総理、どうかされましたか」

「これで、第三次世界大戦が勃発する可能性は」

「ありません。ただのスイッチですから」

「では、何故、押させる」

「総理とは、そのような仕事だからです」

「これで何が起きるんだ」

「分かりません。分かりませんが、このスイッチを押すかどうかを決めるのが総理の仕事です」

「だが、このスイッチを押すしかないのだろう」

「はい」

「どうして、最初から決まっているのに、私に決めさせようとする」

「総理。そういうものです」

 誰かが立っていた。

 私によく似た誰かだった。

 その誰かは、私の目の前で自分の指、いや、手を切り離してみせた。

 血が飛び散ることはない。

 誰かは、塵となって消えた。

 私は自分の手を見た。

 汗をかいていた。

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