ノールックトス

壱邑なお

第1話

「この前の模試、数学上がったよ」

 と報告したら、

「マジで? やったじゃん!」 

 ほんとのお兄ちゃんと同じくらい。

 ひょっとしたらそれ以上に喜んでくれた、2歳年上の幼馴染。

「お祝いに、先輩がおごったる」

 ぐっと親指で指した先は、コンビニのレジ脇。

 湯気で曇ったスチーマーの中では、可愛いキャラクターとコラボした肉まんやあんまんが、ほっかり並んでいた。


 イートインコーナーに横並びで座り、火傷に気を付けながら袋を開けると、もっちり『あんまん』が顔を出す。

 白い皮の真ん中と、底に付いたグラシン紙にも、大好きなキャラが。

「『ゆるかわ』可愛い! あっ、そっちは『オコジョ』だね!」

 先輩が選んだのは、ピザまん。

 淡いオレンジ色に付いた焼き印は、ちょっと癖のある人気キャラだ。

「一口食べてみる?」

 じっと見てたら、『ほらっ』と差し出される。

「いいの? じゃあ、こっちも」

 あんまんの包みを、食べやすいように押さえていると、

「あれっ、新部長!」

 入口をくぐった制服姿の男子たちが、嬉しそうに寄ってきた。


『新部長』ってことは、バレー部の後輩だよね?

 手前に座った先輩の背中から除くと、子犬みたいな男子と目が合った。

 ちょんっと頭を下げると。

「えっ……彼女さん、すか!?」

「そんな子、うちの学校にいましたっ?」

 後輩くん達に、ざわめきが走る。

 ダッフルコートを着てるから、中学生ってバレてないみたい。


「ひどい新部長! 『来年こそ春高で、クレープ半分こしよう』って約束したじゃないすか!」

「そうよそうよ、裏切り者!」

 裏声で、はやし立てる後輩くん。

 なんだかとっても、楽しそうだ。

 

 『彼女さんじゃなくて、幼馴染だけどね?』

 ぽつりと、心の中でつぶやいて。

 一緒に買ってもらった、ミルクティーのペットボトルを手に取った。

 台湾発祥の、ティーカフェとのコラボ商品。

 わくわく白い蓋をひねろうとしたら、

「ん……?」

 めちゃめちゃ固い。

「ふぐーっ!」

 思い切り、力を入れても無理!


 ハンドタオルを使おうと、一旦テーブルに置いたら。

 左側から伸びた大きな手に、すっとさらわれた。


 こちらに背を向けたままノールックで、先輩の右手が掴んだミルクティー。

「うん、うん、それで?」

 視線は後輩くん達に向けたまま、左手に持ち替え、プシュッと蓋を緩めたペットボトルが、とんっと戻される。


 ノールックトス。

 視線を別の方向に向けたまま、上げるトス。

 意表を突いて、敵を混乱させる技。


 目の前に置かれた、280mlのペットボトル。

 その白い蓋に、ととんっと。

 胸の奥を優しく、突かれた気がした。

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ノールックトス 壱邑なお @naona0

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