心霊写真の彼女の圧が強すぎる

鍵谷端哉

第1話

 あ、絶対ヤベーやつだ。

 確実に出るね、ここ。

 賭けてもいい。


「桐生先輩、どうしたんですか?」


 俺が青ざめているのを感ずいてか、小鳥遊さんが声をかけてきた。


「あー、いや。皆みたいに、あんまりふざけたり、大声を上げたりしちゃダメだよ」

「え? あ、はい……」


 小鳥遊さんは物静かで、こういう心霊スポットで浮かれるようなタイプではない。

 けど、念のため注意を促しておく。


 なぜなら彼女は、俺を『認識』してくれる数少ないサークルメンバーだ。

 

 まあ、認識されないというよりは単に『影が薄い』から気付かれにくいってだけなんだけども。


 とにかく、そんな彼女には危険な目に遭ってほしくないというのは当然の話だ。

 だって、話せる人がいなくなってしまうと、かなりツライからね。


 にしても……。


 俺は改めて、家の中を見渡す。


 一見すると普通の家に見える。

 だが、ここはれっきとした心霊スポットで、だからこそ、我々、ホラー研究会に目を付けられてしまった。


 おかしいな。

 ここは大丈夫だと思ったんだが。


 一応、俺は『探索』に行く際、念のため下調べをする。

 なぜなら、霊感の強い俺にとって、『本当に出る』かは死活問題だ。


 憑りつかれようものなら、お祓い料で半月分のバイト代が消えてしまう。

 それだけは絶対に避けないとならない。


 くそ……。

 やっぱ、ホラ研なんかに入るべきじゃなかった。

 霊感の強さを活かして、大学デビューなんて考えた俺が馬鹿だった……。


 実際、霊感の強さなんてサークル活動に何一つ役に立たなかった。


 だってさ。

 心霊スポットに行って、「いや、ここは出ないっすよ」なんてことを言ったら盛り下がるじゃない。

 逆に「ここは出る」なんて言っても、皆のテンションを上げるだけだ。


 まあ、言わなくても心霊スポットに来れば、皆、テンションMAXになんだけども。


 今のように。


 下調べしたときは、別にこの場所で死人が出たわけではないことはわかっていた。

 確か、この家の小学4年生の娘が原因不明の急死をしたとか、なんとかだった気がする。

 しかも、家でじゃなく、外での話だ。


 だから、大丈夫だと思ってたのに。

 完全に宛が外れた。


「おーい! ユウレイ。なーに、こんなところで未桜ちゃんを口説いてるんだ?」


 そう言って肩を組んできたのは、けいだった。

 唯一、大学での友達と言える存在だ。


 ちなみに、『ユウレイ』というのはあだ名で、『桐生怜(キリュウレイ)』という名前と、幽霊のような影の薄さから、高校のときにつけられた。

 けいにそのことを話したら、面白がってそう呼ばれるようになった。

 今ではホラ研のメンバー全員が、俺のことをユウレイと呼んでいる。

 唯一、そう呼んでないのは小鳥遊さんくらいだ。


「瀬戸上先輩! そういうんじゃないですよっ」


 小鳥遊さんが顔を真っ赤にして言う。

 そりゃそうだ。

 俺なんかに口説かれたなんて言われれば、そりゃ怒るだろう。


「俺は単に注意してただけだぞ。呪われるようなことをするなって」


 ったく。

 変なことを言わないでくれ。

 もし、小鳥遊さんが勘違いして、距離を置いたらどうするんだ!

 話してくれる人が1人減るだろ!

 半分も減るなんて、致命傷過ぎる。


「まあ、いいや。写真撮りに行こうぜ! 二階の奥の部屋、まだ誰も入ってないんだ」

「ばかっ! そこは子供部屋だ! 一番危険なとこだっつーの!」

「おお! ユウレイのお墨付きか! 行くしかねーな」

「ちょ、待て! 俺を巻き込むなー!」


 俺はけいにズルズルと引きずられるようにして子供部屋に連れて行かれ、そこでスマホで記念撮影をさせられた。



 で、次の日の朝。

 

 俺は嫌な予感をしつつも、念のため写真をチェックする。


「……あー、やっぱりな」


 そう。

 そこには写っていた。

 ばっちりと。


 カメラ目線でピースサインをしている女の子の幽霊の姿が。



 * * *



 大学の食堂の隅っこで、改めてスマホの写真を確認してみる。

 

 一応、昨日撮った写真を一通り確認してみると……全部にその女の子が写っていた。


 年はたぶん、俺と同じくらい。

 18から20の間だろう。

 まあ、幽霊に年齢の概念があるのかはわからんが。


 腰まである長い髪に白のワンピースという、幽霊にしてはオーソドックな感じなのだが、いかんせん、髪をポニーテルにしているせいで活発な女の子に見える。

 

 なんというか、幽霊っぽさが薄い。

 写真の中ではホラ研のメンバーを含めて、一番楽しんでいるように見える。

 ハイテンションではしゃいでる。


 幽霊がピースやら、親指を立てての決めポーズやら、きつねダンスのポーズやらをしていた。


 知らない人が見れば、まさかこの女の子が幽霊だとは思わないだろう。

 それくらい自然に写っている。


 だが、確かに、こんな子はホラ研にいないし、あのときもいなかった。


 そしてなにより、俺の霊感が警鐘を鳴らしている。


 これは幽霊だ、と。


 そして、なにより厄介なのが――。

 全部俺の隣で写っているということだ。


 ……これ絶対、俺が憑かれてね?


 いや、わかってるんだよ。

 認めたくないだけだって。


 なぜなら、昨日の夜から感じてたから。

 なんか憑いてるなって。


 くそ。気のせいであってくれと思ったのに。

 ささやかな期待は見事に打ち砕かれた。


「桐生先輩、もうお昼ご飯ですか?」


 後ろから声をかけられ、振り向くとそこには小鳥遊さんが微笑みながら立っていた。


「あー、いや、ちょっと息抜きというか……」

「あれ? その写真、昨日のですか?」


 急に小鳥遊さんが俺の肩越しに、スマホを覗き込んで来る。


 うわっ!

 近い近い近い!


 なんてドギマギしたのも一瞬のことだった。


「きゃあっ!」


 小鳥遊さんが小さく悲鳴を上げて、後退った。


 無理もない。

 幽霊が写ってたんだから、そんなリアクションにもなるだろう。


 けど、そこまで怖がることかな?

 幽霊にしては怖さは最弱級だと思うんだけど。


「わたし……幽霊に嫌われてるんですかね?」


 青ざめた顔で、スマホを指さしている。


「ん?」


 幽霊が写真に写っているけど、全部、楽しそうな姿で、嫌われるとかそういうニュアンスのものはなかったはず。


 そう思いながらスマホの写真に目を移す。


「……え?」


 そこには小鳥遊さんに向かって、女の子が親指を下に立てて口を尖らせている姿が写っていた。

 つまり、ブーイングしているような感じだ。

 確かに、小鳥遊さんを嫌っているように見える……じゃなくて!


 俺はあることに気付き、驚愕する。


 そう。

 写真の女の子がさっきと違う。

 つまり――動いている、ということだ。

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2026年1月20日 21:00

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