フィジカルが一番だと気づいた
@catchme
プロローグ 恋をした
思えば、私の人生はその長さに比べて、たいして中身のないものだった。
改めて振り返ってみても、最初の二十年以降、大した思い出もない。ただひたすらに魔法を覚えては作り、改良しては忘れる。それを繰り返していた。
…
「……」
…三秒、ほどだろうか。ついつい意識を手放してしまった。
目から滴り落ちる液体をぬぐうことすらできない程に体が疲れているようだ。
ぽたぽた
「ああ…すばらしい…」
約二百年。エルフである私はその半生を魔法に費やした。
おおよそ他の人間は達することができないであろう域まで魔法を究めた。
どんなに素晴らしいと称えられた英雄も、どんなに恐れられた魔王であろうと、私の魔法の前では等しく羽虫のごとき存在でしかなかった。
今日も、そうだ。
残り二百年も残っている己の暇をつぶすために、ふと見かけた集落を焼き尽くしていた。そのはずだった。
……
顔を上げる。逆流する液体がのどのあたりで固まる感覚に顔をゆがめる。が、それ以上に今日の空はひどく美しく見えた。
「嗚呼…」
………
またか。また少し眠っていた。
私は今日、己の生涯を真っ向から否定されるような経験をした。
ぷるぷると震える腕を腹にあてる。
──グチョ
この傷も。
この痛みも。
すべて今日与えられたものだ。
♡♡♡
集落を燃やすという暇つぶしを終え、木陰で本を読んでいた私のもとに、一人の女が来た。
『君がこれをやったのかね?』
モノクルに手をかけ、そう聞いてきた。
年の頃は30に届かぬくらい。まだまだ若い。といっても、それだけ。魔力もほとんどない。
『それがどうしたんだい?研究のために使うのなら好きにしてくれて構わないよ』
その服装からして、研究者という人種であることを予想し、それに適した回答をできたと自負している。
『そうか』
女はそう小さくつぶやくと、目の前から消えた。
『…?』
結局何だったのかを考えることもなく、私は本に向き直る。
直後、私の視界には腕が迫っていた。
──パリン
私の防御魔法が一枚割れた。
──バリリリッ!
何十層にも重ねた防御魔法が、硝子のごとく散っていく。
目に焼き付いた拳が、私の顔を吹き飛ばす。
(体勢を立て直さなければ)
そう思う間もなく追撃。腹に三発、両肩に四発。そして顔面に十二発。〆の蹴りで私は意識を刈り取られた。
♡♡♡
与えられた傷と痛みを思い返していると、先ほどの女がやってくる。
「…まだ死んでないのか」
心底うんざりしたような顔をして見せる女に見惚れる。ああ、なんて素晴らしいのだろう。
実に、この空に負けぬほどの美しさだ。
「遺言くらいは聞いてやらんこともないが…」
「…ゴフッ…そう…だね。一つ…質問させてもらおうか…な」
どうしても、これだけは聞かねばならぬ。
私が口を開くたびに滴り落ちる血液を、女は気味悪そうに眺めている。
「その…武術は…どこ…で…?」
知りたい。究めたい。その欲望があふれ出る。
「…これは私の我流でね。まあどちらにしてもここで死ぬ君に教えるつもりはないのだが…」
女は私の願望を知ってか知らずが、嘲笑するように答えた。
「さて、では死んでもらおうか」
顔面に衝撃。もうすでに原型が残っていない顔にさらに強烈な一撃が叩き込まれる。
「いくら頑丈だといえ、心臓を貫いてしまえばもはや生きれまい」
私に馬乗りになってそういう女に、私は初めて恐怖を覚えた。
「ヒュッ…」
振るわれた拳はいともたやすく胸を貫いた。
……………
「ガフッ…ヒュー…ヒュー…」
目を見開くと、明るかった空も闇に包まれていた。
何とか一命をとりとめたが、もう一日と生きられないだろう。
私は最後の手段として、昏睡状態の中、作り上げた魔法を起動する。
あの女は経産婦だ。またがられた際に、透視魔法で体内を視た。
私はあの武術が、拳が忘れられない。あの力が、あの技術が欲しい。
しかし私はもう死ぬ。ならばどうすればいいか。
以前、私が殺した戦士の中に『転生者』というものがいた。私が遭遇した中でも抜きんでた強さをしていたそれは、一度死んでからこの世界に生まれ落ちたのだという。
…ならば私も転生できない道理はない。
あの女は、おそらく自分の子供にその武術を託す。その子供も、また次世代へ託す。人間とはそういうものだ。私は
ならば百年後でも、いや、二百年後でも…
何年かかろうとも私は再びこの世に生まれ落ち、あの拳を手に入れる。
…昔読んだ書物曰く。
これが『恋』だそうだ。
私の二百年はひどく退屈で、ひどく長かった。が、それ以上に、最期に一つ、断言できることがある。
──私はあの拳に恋をしている。
「
フィジカルが一番だと気づいた @catchme
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