第二章 ロングシュートを決めたら(Side 森圭太)
第4話
鼓動が止まらないのはなぜだろう。
いつもと同じで、ベンチから試合を見ているだけなのに。
監督が飛ばす過剰な檄も、視界の端でせわしなく給水ボトルを運ぶマネージャーも、今日はなぜか気にならない。
体育館の中には湿気と熱気が充満し、靴底のきしむ音があちらこちらで響き渡る。
第三クォーターも終盤。スコアは60対62。うちのチームがわずかにビハインドの状況だが、ほぼ互角の試合と言っていい。
相手チームはリズムに乗っていて、速攻が決まるたびにベンチが跳ね上がる。スタンドのざわめきも相手側の応援が目立ち、こちらの側はため息混じりだった。
「ディフェンス!」と叫ぶ先輩たちを嘲笑うように、相手のシュートはゴールに吸い込まれていく。時計の針が進む音が、やけに大きく聞こえる気がした。
「一本!」
スターティングメンバーは、声を掛け合いながら決死の戦いをしている。
中学の頃は、それを目の当たりにしても、何とも思っていなかった。
当事者意識がまったくなかったのだろう。
なぜなら、自分はただの補欠で、出場機会とは無縁な存在だったからだ。
でも、今は違う。
「誰かのためにプレーする」ような感傷的な心持ちではない。「このメンバーで絶対に全国に行く!」という、スポーツ漫画の主人公のような熱い気持ちもない。
今でも俺自身には、何もない。
じゃあ、何が変わったというのだろう……?
俺はあの日、”彼女”に出会ってしまった。ただそれだけなのだ。
体育館の二階に現れる謎の幽霊。校内で騒がれている、世にも奇妙なポルターガイスト現象の原因。
どんな形容の仕方をするかは重要ではない。実際のところ俺には、誰にも観測されることのない、ひとりぼっちの、哀しい少女にしか見えなかったのだから。
”圭太君、わたしのことそんな風に思ってたんだ……ひどい。散々な言い様だね”
想像の中で彼女が、そんな風に語りかけてくる。
どことなく笑いを含んだ口元。
ダウナーながらセンチメンタルさを微塵も感じさせない、平坦な喋り方。
どんな表情をしているのか。全体を見ようとすると、輪郭が霧のようにぼやけて、どうしても掴めない。
自分に言い聞かせる。
(いい加減気づけよ。もう彼女はこの世界にいないんだって。彼女に俺のプレーを届けることなんて、もうできないんだ)
ただ、俺の頭の中に、彼女と触れ合う中で得たもの。それだけが残っていて、プレーの中で生かすことはできるんじゃないかって、そういう風に思う。
だから、今はただじっと待つ。選手交代の笛が鳴るそのときを。
俺は目を閉じて、少しの間だけ、これまでのことを思い出していた。
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