千年に一人の天才、スポーツ界を席巻する
茶電子素
(勝手に)キンボール40周年記念作品
僕の名前は
キンボール歴十五年、千年に一人の天才らしい。
らしい、というのは、僕自身は特にそう思っていないからだ。
ただ、巨大なボールを追いかけて転がして跳ね返していたら、
いつの間にか全国大会で優勝していた。それだけの話だ。
そんな僕が、今日も地元の体育館で練習していたら、
友人の佐伯ユナが息を切らして飛び込んできた。
「タマオ! 大変! あなたの動画がまたバズってる!」
「また? 昨日はキンボールを蹴って天井を破壊したやつだっけ?」
「今日は野球のバッティングセンターでホームラン連発してる動画。タマオ、野球も始めるの?」
「いや、ちょっと暇だったから」
ユナは頭を抱えた。よく分からないが、世の中は僕の暇つぶしに厳しいらしい。
そのとき、体育館の扉が勢いよく開いた。
スーツ姿の男が三人、肩で息をしながら駆け寄ってくる。
「黄金崎選手! うちのプロ野球チームに来てください!」
「いやいや、うちのバスケチームが先に声をかけたはずだ!」
「サッカー協会もあなたを探していたんです!」
体育館が急に就職説明会みたいになった。
ユナは僕の背中に隠れるかのようにして、ひそひそ声で言う。
「タマオ、どうするの? このままじゃ体育館がスカウトで埋まるわよ」
「じゃあ、適当にどこか行ってみるよ」
「(関係各所に怒られるから)適当って言わないで!」
結局、じゃんけんで勝った野球チームのスカウトに連れて行かれた。
球場に着くと、プロ選手たちがずらりと並んでいる。
その中でもひときわ目立つ男が、腕を組んで僕を見下ろしていた。
「俺は
挑発されているらしいが、僕は特に気にしない。
バットを渡されたので、素直に構える。
「じゃあ、軽く打ってみるよ」
球が来た瞬間、キンボールで鍛えた全身反動ステップが勝手に発動した。
気づいたら、ボールはスタンドをはるかに超え、夕闇に消えていった。
球場が静まり返る。
「……今の、何キロ設定だったんだ?」
「たしかに早かったけど、キンボールより軽かったよ」
大木太が口を開けたまま固まっている。
スカウトたちは電話をかけまくり、ユナは頭を抱えている。
「タマオ、あなた、また怪物の片鱗を見せちゃったわね……」
「そんなこともないと思うけど。で、次は何をすれば?」
「次って……あなた、まだやる気なの?」
そのとき、別の競技団体が球場に雪崩れ込んできた。
「黄金崎選手! 陸上に来てください!」
「いや、バスケだ!」
「アメフトが先だ!」
球場はカオスとなり、僕はユナに腕を引っ張られて逃げ出した。
「タマオ! あなた、少しは断る努力をして!」
「断る理由がないよ。どれも楽しそうだし」
「あなたの“楽しそう”でスポーツ界が混乱してるのよ!」
走りながら、僕はふと呟く。
「でもさ、ユナ。僕はキンボールが一番好きなんだよね」
「……知ってるわよ。だからこそ、あなたは厄介なの」
体育館に戻ると、地元の子どもたちが僕を見て歓声を上げた。
「タマオ兄ちゃん! キンボール教えて!」
「うん、いいよ。今日は転がし方を教えるね」
子どもたちと巨大なボールを追いかけながら、僕は思う。
世界がどう騒ごうと、僕はただキンボールが楽しいだけの奴だ。
それで十分だし、たぶんそれが一番幸せなんだと思う。
だが明日も、どこかの競技団体が体育館の外で待ち構えている気がする。
ユナがため息をつきながら言った。
「タマオ、お願いだから、明日は大人しくしてて」
「うん、努力してみるよ」
ちなみに、努力するだけで『できる』とは言ってない。
というか大暴れ自体は、する気満々、『世界を震撼させてやる』まである。
そんな僕の毎日、今日のところは終わりにしておいてやろうじゃないか。
千年に一人の天才、スポーツ界を席巻する 茶電子素 @unitarte
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