『神殺しの鉄屑(スクラップ)』 ~Fランクの俺が拾った錆びた棒、実は北欧神話最強の「沈黙の神」でした。覚醒したら学園の英雄たち(トール・オーディン)が勝てないそうです~

ひのたろう

第1話 選定の儀と、ゴミ拾い

「――次。受験番号402番、剣崎雷牙(けんざき らいが)」


 無機質なアナウンスが響いた瞬間、講堂の空気が張り詰めた。  国立ヴァルハラ学園、中央講堂。  日本の未来を背負う『適合者』を選別する、運命の【神器選定の儀】。


 壇上に上がったのは、鋭い目つきをした長身の少年だ。  彼が祭壇の中央に突き刺さった、巨大なハンマーに手を伸ばす。


「ふん……」


 彼が柄を握った、その時だ。


 ズドオオオオオオッ!!


 鼓膜を破るほどの雷鳴と共に、黄金の稲妻が講堂を貫いた。  まばゆい光の中、彼は軽々とその巨槌を引き抜いてみせる。


「す、凄い……! あれが雷神トールの『ミョルニル』か!?」 「Sランク確定だ! 十年に一人の逸材だぞ!」


 どよめく教師たちと、羨望の眼差しを向ける生徒たち。  剣崎雷牙は、手の中のハンマーを一瞥し、退屈そうに鼻を鳴らした。


「当然の結果だ。俺以外の誰に扱えると言うんだ」


 圧倒的な才能。  誰もが彼を英雄と認める光景。


 それを舞台袖の暗がりで見ていた僕は――天宮優人(あまみや ゆうと)は、小さくため息をついて胃のあたりを押さえた。


(うう……すごいなぁ。僕なんて、場違いもいいところだ……)


 僕はごく普通の高校生だ。  いや、『普通以下』かもしれない。勉強も運動も苦手。得意なことといえば、迷子の猫を探すことくらい。  そんな僕がこの学園の試験を受けたのは、単なる記念受験だった。


「次。受験番号403番、天宮優人」


「は、はいっ!」


 名前を呼ばれ、裏返った声で返事をする。  クスクス、と会場のどこかから失笑が漏れた。  顔を真っ赤にしながら、僕は祭壇へと進む。


 そこには、数多の『神器(レプリカ)』が並んでいた。  剣、槍、弓、杖……。  この中から、自分に適合する武器があれば、それが光り輝いて持ち主を選んでくれるはずだ。


(頼む……! なんでもいい、光ってくれ……!)


 僕は祈るように手をかざした。


 ……シーン。


 何も起きない。  剣も、槍も、沈黙したままだ。  10秒、20秒、30秒。  痛いほどの静寂が続く。


「……適性なし」


 試験官の冷淡な声が、死刑宣告のように響いた。


「え、あ、あのっ、もう一度だけ!」 「下がりなさい。君に宿る神はいない。時間の無駄だ」


 バッサリと切り捨てられる。  ああ、やっぱりか。  奇跡なんて起きない。僕はやっぱり、何者にもなれないんだ。


 うなだれて、僕はトボトボと舞台袖へと歩き出した。


 ◇


「はぁ……帰ろう」


 選定の儀の帰り道。  華やかな合格者たちから逃げるように、僕は学園の裏庭を歩いていた。


 誰かを守れるような強さが欲しかった。  昔、テレビで見たヒーローみたいになりたかった。  でも、現実はこれだ。


 ガッ。


「おっと」


 考え事をしていたせいで、何かにつまずいた。  足元を見る。  草むらの中に、何かが落ちていた。


「……鉄くず?」


 それは、長さ1メートルほどの『鉄の棒』だった。  いや、棒というよりは、建設現場から出た廃棄物だろうか?  全体が赤茶色に錆びついていて、表面はボロボロ。持ち手すらない。  ただの、汚い鉄の塊。


 普段なら見向きもしないだろう。  でも、なぜだろう。  捨てられて、誰にも見向きもされず、草むらに埋もれているその姿が――今の惨めな自分と重なって見えた。


「お前も……選ばれなかったのか?」


 僕は思わず、その鉄棒に手を伸ばした。  指先が触れる。  冷たくてザラザラした感触。


 ――ズシッ。


「うっ、重……っ!?」


 持ち上げようとして、よろめいた。  見た目以上に重い。鉛の塊を持っているみたいだ。  でも、不思議と手放す気にはなれなかった。  錆びついた鉄の奥底から、ほんのりと微かな『熱』のようなものを感じたからだ。


「……変なの。持って帰って、磨いてみるかな」


 その時だった。


 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


 突然、学園中に不気味なサイレンが鳴り響いた。  空気がビリビリと振動する。  ただごとの警報じゃない。


『――緊急警報! 緊急警報!』 『第一結界が消失! 校庭に【巨人種】反応あり!』 『訓練ではありません! 生徒は直ちに避難を――』


「え……?」


 放送が途切れる。  直後、ズシン、ズシン、と地面を揺らす地響きが近づいてくる。


 平和な学園生活が始まるはずだった今日。  僕たちの日常は、唐突に終わりを告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月20日 14:00
2026年1月21日 14:00
2026年1月22日 14:00

『神殺しの鉄屑(スクラップ)』 ~Fランクの俺が拾った錆びた棒、実は北欧神話最強の「沈黙の神」でした。覚醒したら学園の英雄たち(トール・オーディン)が勝てないそうです~ ひのたろう @hinotarouco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画