シーザース◇くらっしゃー

京楽祥廻

シーザース◇くらっしゃー

 塔埼愛って女の子知ってる? 三組の子。噂になってるよ。知らないの?

 女子たちの井戸端会議では今、この話題が持ちきりだった。

 クラスの女子の目玉をハサミで抉った狂気的な女子としてね。

 噂は、噂を呼び、肥大化し。やがて、本人の預かり知らぬところで一人歩きする。

 一重に、怪奇と呼ばれるものは古くからこれが始まりだろう。

 人の言葉こそ、災いの元。あぁ怖い、怖い。


 なら、深夜の丑三つ時の時間に呼び出されたぼくは不幸気質なのだろう。

 塔崎の家は、裕福な家だ。なに不自由なく暮らしている。

 ところで、君は誰――――誰なんだい? そろそろ教えてくれないか。まぁ知ってるけどね。なーんてね。

 こんな立駐に呼び出して、ハサミは閉まって欲しいかな。それで目玉を抉るのは勘弁願いたい。


君の趣味は知っているつもりだが、君を知らないからこそ。

君を認識したくない。

したくはないが、それはエゴかもしれない。ヒトのエゴ。君たちは好きで生まれた訳ではない。ヒトが生んだ産物だからな。


ハサミから血が流れ落ちる――――

 誤解しないでほしい。君がまだ、生身の人間であることも知っている。


 ※


 君が目玉を抉った女子生徒は三人。

 いづれも、塔崎愛にいじめを行っていた連中だろう?

 そして、連中が塔崎愛にした仕打ちを呪い返しと言う形で返した。


 君はという怪異を生むきっかけ。


「私は殺したかった。しかし、殺せなかった」


 怪異は、初めて言葉を発しった。

 ハサミを握りしめ、震えながら言葉を紡いだ。


「なり損なった……」


 噂噺程度では。

君を【切り裂き】の域の怪異に変貌させる事はできなかったのだろうね。

「せんぱい……たすけ……て」


怪異のなり損ないは、ハサミを握りしめながらかすれた声で懇願した。

 塔崎愛は、愛されいるんだなと思うと少しだけ胸やけした。


 対価は? 

君は、ぼくに何を払える?


「私は……私の右目を対価に」


 ふむ。不釣り合いではないな。よし、受けよう。

 塔崎芽久、契約は成った。

 ぼくは、芽久の右目に手のひらの乗せる。


「せん……ぱい……」


 なり損ないだからな。痛むが、観念しろよ。


「あぁぁぁぁ‼」


芽久、君の怪異は、取り除かれた。ヒトに限りなく近しい存在に戻った。

噂には触れたため、寄って来るかも知れぬが、片目を失った君には、もう力がない。安心して姉の傍に居るといい。

姉の変わりに、事件を起こしていたのが妹。笑っていいものなのかな。

噂は一人歩きするものだな。本当に。真実は、意外性に溢れている。

 

「ありがとう……ございました」


 ぼくは、願い屋としての仕事をしただけさ。君が噂に呑まれ、怪異そのものになっていたらぼくは君を祓わなくていけなかっただろうからね。

 ぼくは、君を知らない。

 ぼくは、君を認識しない。

 だが、必要な縁は、巡り巡ってやって来る。

 ただそれだけさ。


 閑話休題――――


 あの子の右目は「切り裂き魔」の眼として魔眼としての力がある。

 きっと、いづれ、巡り巡って、誰かの手に行くのだろうね。

 それは、また別の噺。

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