ヴァンパイア♡まっちんぐ

京楽祥廻

ヴァンパイア♡まっちんぐ

 夜の街を照らすネオンの街灯。

 研示は、家を飛び出して夜の繁華街を一人歩く。雨上がりだったが人は多かった。


「ッあ……すんません」


「ぼっさっと歩いているんじゃねぇよ」


 男性にぶつかり小声で謝る。研示は、行く当てもなくただ人混みをかき分けながら歩いた。どれくらいだろうか? 夜も更けた頃。携帯から映し出される光に顔面を照らされながらポールの手すりの上に座り込んでいた。


「隣いい? あ、答えなくていいよ。勝手に座るから。君、何歳? 見た目若いね。家出?」


 一気に質問責めしてくる。謎の美少女。整った、整いすぎた顔に幾つも空いたピアス。


「……ッ」


「もしかして、童貞? かわいい‼」


 缶チューハイを片手に寄せてくる。

 研示は、缶チューハイのアルミが肩に当たる冷たさに、びくりと身体を震わせた。


「ちょ……近いって」


 美処女は悪気もなく笑い、手すりの上で足をぶらぶらと揺らす。ネオンが彼女の横顔を照らし、濡れたアスファルトの光と混ざって揺れた。


「名前は?」


「……研示」


「けんじ? ん~、似合う。素直そうって感じ!」


 彼女はそういうと缶をひょいっと研示の方に差し出した。


「呑む? あ。君は成人しているよね?」


「俺は……十六」


「ガキじゃん!」


 笑った彼女は嬉しそうに研示の肩を指でつついた。


「で。けんじくんは、どうしてこんなことろに一人で座っているの?」


「家に居たくなくて……出てきただけ」


「ふぅん。ケンカ?」


「……まぁ」


 研示は深くは語らなかった。ただ足元の水たまりを見つめた。

 暫くの沈黙。しかし彼女は楽しそうに缶チューハイを呑んでいた。


「いいね。そういうの」


「……どこが」


「だってさ。帰る家があるのいいじゃん。逃げてもさ。凄いことだよ。それって」


「……君は? なんでこんなところに」


「わたし?」 彼女は肩をすくめて夜空を見上げた。


「んぅー。退屈しているから。誰かと話したかっただけ。ほら夜ってさ、知らない人と話すのにちょうどいいじゃん?」


「そんなもんか」


「そんなもんだよ」


 笑う彼女はどこか影を秘めているようだった。


「……ねぇ、名前教えてよ」


「知りたいの?」


「俺だけ教えるの不公平だ!」


 くすくす笑いながら彼女は勢いよく水たまりにダイブした。

 水面の光が揺れる。


「けんじくんって人生楽しんでる?」


「なんだよ、急に。自分じゃよくわかんないよ」


「そっか。じゃぁさ。私が楽しい思い出作ってあげようか」


 彼女の発言の意図が読めかねて、研示は返事をしかねていた。

 ネオンの街灯に照らされた彼女の横顔は、さっきよりも柔らかかった。

 質問の返事をしかねて視線を落とすと、彼女のブーツが水たまりを弾いていた。


「また、後日会いましょ。この場所でね。今日は、まだダメだから」


「ダメって……どういう意味?」


「夜更かしはダメだぞッ。不良少年!」


 彼女は、大げさな動作で叫ぶとその場から立ち去った。

 これが、キラとの出会いだった。

 待ち合わせ場所はこの場所。古い建物の光った看板した。看板下のポールの前に立つキラは、やはりいつもと変わらず美しかった。キラはがこちらのほうに気づき手を振る。彼女が微笑むと血管が白い首元に一瞬浮かぶ。


「ひっさしぶり~。今日も抜け出してきたんだ」


「うん……会いたくて」


 研示とキラは風が吹き抜けるネオンの街を歩いた。やがて、二人はだいぶ人目に付かない路地までやってきた。キラは、研示の髪を撫で上げると耳に触れた。


「……キラッ」


 人目は無かった。鼓動が速くなるのが分かる。それは、研示だけでなく。

 キラもだ……しかし、キラの呼吸が早くなっているのは別の意味であるのだが研示には知るよしもない事であった。キラの白い肌に薄く汗が浮かびあがる。

 壁際に押さえつけられた研示は薄目でなすがまま体勢を委ねていた。キラの身体が迫り、胸が押し当てられる。声にならない声が出そうになる。キラは一歩さらに近づく。夜目でも分かる程にほんのり頬が赤い。


(俺は、ここで初めてを……‼)


 そんな言葉が密かに頭の中を駆け巡った。


「……ほんの、少しだけ触れさて」


 キラはその冷たい指先を研示の首の脈に添えた。鋭い爪が首筋に触れる。

 今思えば、盲目的になっていたかもしれない。

 身体はいうことを聞かずに彼女のなすがままに命令をきく人形へと化した。

 この時、すでに気づくべきだった。魅了されていた事に。

 彼女が、人ではない事に。ヒトならざる――――人外である事に。

 月夜に一瞬照らされた路地で密かに行われた吸血行為。

 それは、誰も知らない人外の物語。


 ネオンの街には、不思議な美少女がいる。

 夜更けに現れ若い少年たちに声を掛け魅了する謎の美少女が。

 しかし、彼女に出会った者たちは皆、淡い思い出だけを残して朝路地裏で目を覚ます。

 その時には、既に彼女の姿はなく。彼女と夜を越した者はその後、彼女と会う事は二度とないという。

 罪造りな思い出だけを残して去っていく美少女の噺は、ネオンの街に今も密かに広がっているのだった。

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