ハンドル
@kt24iihito
ハンドル
「寒いな……」
引っ越して初めての冬は、思っていたよりも雪を見ることがなかった。
それでも埼玉で25年生きてきた俺にとって、富山の冬は堪える。
「なんでこんなに街灯がないんだよ……」
仕事終わりの帰宅途中、暗い歩道を、バスのヘッドライトだけが照らしてる。
転勤を伝えられたのがちょうど一年前の12月。
望まぬ転勤だったが、上司から「栄転」という名の突っ張りで、深く考える間もなく新居を探し、引っ越した。
それでも、環境を変えなければと考えていた時の話だったので、大きく嫌な感情は湧かなかった。
ひかりと別れて1年と9か月が経つのに、彼女への思いは消えぬまま、家で一人でいると無性に感じる静けさに、飽きてきたころだった。
転勤後の職場は、優しい同僚たちに暖かく受け入れてもらい、とても充実していた。
しかし、帰宅すると今までと変わらぬ静けさを感じ、テレビの音とアルコールに頼る生活からは抜け出せずにいた。
年末は、締め切りが近い業務が立て込み、先月に比べ、職場も少しピリピリとした空気が張り詰めている。
昼休憩も12時に取ることができず、各自業務が落ち着いたら1時間休憩をとるようになっている。
その日も、13時15分から昼休憩をとることができ、職場から歩いて5分ほどにある定食屋に向かった。
「いらっしゃい!今日も唐揚げかい?」
大将は、60代ほどの白髪とシワを持っているが、30代の体と活力を持っているような人だ。
初めてこの店にきた時に食べた、唐揚げ定食があまりに美味しく行きつけになった。
大将は店主としての才能に満ち溢れており、どこか懐かしい雰囲気の店内と来店2回目のお客さんの顔を覚え、3回目にはお気に入りメニューまで覚えている。
「じゃあ唐揚げ定食を…」
「はいよ!」
唐揚げ定食以外食べるつもりはないが、それ以外も選べないのではないだろうか……
「お待たせ!ごはん大盛りサービスね!」
あまり食べられる方ではないが、ここの定食が美味しいので、ごはんの大盛りも完食できる。
時間がピークからずれているのもあり、今日の定食屋は自分のほかに男性2名しかいなかった。
その2名も自分が定食を半分食べる頃には、お会計をしていた。
「兄ちゃんはどこから来たんだっけ?」
丁度帰った2名の洗い物をしながら、大将が聞いてくる。
「埼玉です」
「富山はもう慣れた?」
「だいぶ慣れました。住みやすいところですね」
「そうだろ!いいとこだぞ!飯はうまいしな!」
定食屋の大将がそういうんだから、富山のご飯は相当おいしいのだろう。
実際、とてもおいしいのだが。
「昨日な、今くらいの時間に来てたお客さんがバスの運転手だったんだけどよ」
こちらが定食を食べていることなど気にも留めず、大将は話を続ける。
「なんか、富山のこの地域にめずらしいバスが走ってる都市伝説があるんだとよ!」
「へぇ~どんなバス何ですか?」
「なんだか自分の行きたいところに、連れてってくれるバスがあるらしいんだと!」
「え、バスって、行きたいとこ行きのバスに乗るものなので、それって普通のことじゃ……」
「それがよ、強く望む場所が明確にあって、その場所にどうしても行きたいって思いがないと、そのバスにすら出会えないんだと!」
「ほう……」
「しかもよ、この店出て右に進んで公園があるだろ?その公園にあるごみ捨て場の向かいに、今は使われてないバス停があるのわかるか?そこに23時23分丁度に来るらしいのよ!」
「なんですかそれ…」
「俺も本当にそんなものがあるとは思っちゃいねぇけどよ!もしあったら、どこでもバス定食とか作ったら繁盛するんじゃねぇかなっておもってよ!」
「もしそんなバスが本当にあって人気になったら、みんな食べるでしょうね」
「そうだろ?名前が大事なんだ名前が!」
どこの地域にも同じような都市伝説ってあるんだな……
と、その時は深く考えてはいなかった。
会社に戻ると、またピリピリした雰囲気の中、キーボードと液晶画面に向き合った。
キリがいいところまで進めないと……
金曜日は翌日が休みの為、自然と残業時間が増えてしまう。
時計が22時を過ぎたころ、仕事用と使い分けているプライベート用のメールアドレスに、カード会社からの請求金額のメールが来た。
仕事もあと少しで、キリがいいところまで進んだので、一息つこうと思い、プライベート用のアドレスにきたメールを開こうとしたら、一年前にひかりの友人から来たメールが目に留まった。
開く必要がないのは理解してたのだが、指が勝手にそのメールを開いてしまう。
”コウくんへ
急な連絡ごめんね。コウくんに伝えないことをひかりは望んでいると思うけど、コウくんにも知る権利があると思う。これは私の勝手な判断だから、ひかりに怒られちゃうかもだけど……
ひかりは3か月前に亡くなったの。ガンだった。見つかるのが遅くって、治らなかったの。
葬儀も全部終わって、今になって伝えることになって本当にごめんね。
ただ、ひかりはコウくんと別れたくて別れたんじゃないってことは知っておいてほしいの。
迷惑かけたくなかったんじゃないかな。
本当にそれだけ伝えたかったの。急にごめんね。
真紀より”
ひかりと別れてちょうど一年経った頃に、来たメールだ。
あの時は、理由も伝えられず、一方的に別れを切り出され、他に男が出来たんだと勝手に思い込んでいた。
俺はすぐにメールをくれた真紀に話を聞き、ひかりの墓に行った。
自分でもびっくりするくらい泣いた。嗚咽で呼吸ができないくらい泣いた。
仕事も3日休んだ。今まで他に男が出来たと思っていたことの罪悪感と、そばにいられなかった無力感。
それに、頼ってもらえなかった寂しさなど、一度に抱えたことがない量の感情たちを、どう処理すればよいのかわからなかった。
それから、ひかりと生きていた記憶がある場所を巡った。
最後に行った水族館。ひかりは水族館が好きで、ことあることに行きたいと言っていた。
最後に行った遊園地。有名な大きいところではなく、浅草に昔からあるところだった。
最後に行ったカフェ。チョコのクッキーが食べたいって言って、無理やり連れていかれた。
どこに行っても、ひかりは笑ってた。その笑顔がたまらなく好きだった。
ただ、いつからひかりは苦しんでたんだろう。いつから俺に隠していたんだろう。いつ俺に話さないって決めたんだろう。実はこの水族館に行く前に決めていたのか。
なんてことを考えると、また涙が止まらなかった。
ひかりの状況を知っていたら俺には何ができたのだろう。
変わってあげることもできない。病院に入院させてた?ひかりはそれで幸せなのか?
ただひたすらに様々な感情が、心の中でグルグルとめぐり続けていた。
そうして記憶のひかりにすがりながら、ただ生きていた時に富山に転勤の話が来た。
「コウくん、寒いの嫌いじゃなかった?」
転勤を決めた際に、ひかりに言われた気がした。
真紀からのメールを開くたびに、ひかりとの思い出とメールを受け取った時の感情等をまた思い出せる。
結局、ひかりは俺の中で生きているんだと思い込みながら、俺自身も生きているんだと思う。
流れた涙をティッシュで拭きながら、残っていた仕事を進めようと思ったが、どうしても手が進まない。
時計を見ると、作業が進んでいないまま23時になろうとしていた。会社にも自分しか残っていない。
「帰ろう…」
声に出すことで、帰っていいよと誰かに背中を押してもらえる気がした。
コートに袖を通し、夜間警備の人に帰ると伝えて、会社を後にした。
「お疲れ様でした」
今は俺が警備員に言った?それとも言われた?
なんだか、疲れたようだ。
ひかりは寒いのが好きだった。冬も雪も。12月生まれの俺より好きだった。
寒いと思うとひかりの事を思いだす。暗いと思うと、暗闇が嫌いだったひかりを思いだす。
この世に生きていく限り、ひかりにすがって生きていくしかないのかもしれない。
それだけひかりという存在が、俺にとって大きかった。
積もるほどではない雪が降り始めた。
街灯がない道を、雪の白さが染めているような視界に、今は使われていないバス停が映った。
時計を見ると23時20分。本当に来ると信じているわけではないが、バス停に座ってみることにした。
「何してんだろうな…」
雪が降っている空は、現実を見せるには十分だった。
冷たさが、顔の皮膚をピンと張っているような中、遠くから二つのオレンジ色をした光が近づいてきた。
二つのライトが、俺の顔を照らしながら、距離を縮めてくる。
気が付くと座っている自分の目の前に、一台のバスが止まっていた。
シューーという音とともに、前方部分のドアが開き、運転手が降りてくる。
「こんばんわ。ご乗車されますか?」
バスの側面にある電光掲示板には、”坂上功サカガミコウ⇒”と書いてあり、行先が書いてなかった。
「あの、このバスって……」
「はい。お客様のご希望の目的地までお届けするバスでございます。我々はど・こ・で・も・バ・ス・と呼んでおります」
「本当にあるんですね……」
「おや、お客様は事態の呑み込みが早い方ですね。たいていの方には一度の説明ではご理解いただけないのですが」
「いや……信じてるわけじゃないですけど、実際にいるので……」
「お客様。大変恐れ入りますが、私寒いのが苦手でして……続きはバスの中で……」
「あ、すいません……」
なぜ謝ったのか、自分で理解できないまま声に出し、運転手とともにバスに乗り込むことにした。
バスの中は、いわゆる路面バスと何も変わらず、乗客は自分一人だった。
寒い寒い…と小さく呟いている運転手は、30代の男性で、路面バスの運転手としか見えない制服姿だった。
「改めまして、こちらはお客様のご希望の目的地までお届けするバスでございます。目的地に制限はございません。北海道でも、沖縄でも、海外でも。もっと言えば宇宙でも。おすすめは致しませんがね」
「はあ…」
「しかしながら、こちらのバスに乗車できる方は、すでに強い思い出や願望がある方になります。つまり、乗車をご希望された段階で、目的地が自動的に決まる仕組みです」
「僕だと、どこになるんでしょうか」
「こちらになります」
運転手が手を向けた先、運転席上部にある電光掲示板に目を向けた。
”坂上功サカガミコウ⇒石川ひかりイシカワヒカリ”
「これって……」
「お客様のご想像どおりです。目的地は石川ひかり様のいらっしゃるところです」
「このバスって天国にも行くんですか?」
「天国というには少し違うのですが……お客様の強い記憶と申しましょうか……」
「ひかりにあえるなら!連れて行ってください!」
「やはりお客様は珍しい方だ。大抵の方は信じなかったり、自分の死ぬのかなど聞かれるのですが」
自分が死ぬことなどどうでもよい。もう会えないと思っていたひかりに会える可能性があるなら。
「承知いたしました。それでは、ご説明いたします」
そういうと運転手は、僕を座席に腰掛けさせ、隣に座り始めた。
「まず、このバスは料金はかかりません。もっともお金などというもので、支払える対価ではありませんからね。では何が対価というと、お客様の感情です。対価は前払い制となっており、すでにいただいております」
「ごめんなさい。この時点であまり理解できてないです」
「そうですよね。でも続けますね。前払いというのは、目的地に行きたい気持ちの強さです。その思いが強ければ、対価が大きくなり、このバスの稼働時間が長くなります。お客様ですと……目的地での滞在時間は30分となりますね。ここまでご理解いただけておりますでしょうか」
「つまり、俺がひかりに会いたい気持ちが、すでに対価として支払われていて、その気持ちの強さ的に、ひかりに会えるのが30分ってことですか?」
「さようでございます。呑み込みが早くて助かります」
「ちなみに30分は長い方ですか?」
「はい。皆様10分~15分が多いので、長いかと思われます」
「そうですか……」
その言葉を聞いて、ひかりに会いたいと思っている強さが人より強いことに少し誇らしくなった。
「最後に注意点です。こちらのバスに出会えることは決して珍しい事ではありません。しかし、あまりに多くの方にこのバスの話をされてしまいますと、対応が間に合わず、いつかは廃線となってしまうかと思われます。ですので、今回の出来事については、本当に必要としている方にのみお話しください」
強い視線で俺の目を見つめる運転手に、無言で頷いた。
「もう一点は、滞在時間を過ぎると自動的に現在の場所に戻ってきます。その際は、お客様が先程座られていたバス停に戻ってくることになります。再度乗車したいとしても、お客様のように目的地が”場所”ではなく”人”の場合、お相手様が望まぬ場合は行くことができません。ですので、今回の機会を大切になさってください」
それでは…と運転手は立ち上がり、運転席へと向かった。
運転手は車内用のマイクを使い、アナウンスを始めた。
「大変お待たせいたしました。石川ひかり様行き、発車いたします」
俺はひかりに会える喜びと、何を話せばいいのかわからない不安が、バスの揺れと同じくらい揺らいでいた。
バスは動き出して、10秒ほど経つと、光の中を走っていた。
まるでバスを光が包んでいるような中、確実に前へとバスは進んでいた。
「お待たせいたしました。石川ひかり様到着です」
体感30秒程度の、気持ちの整理をつけるには、到底足りることのない時間で、運転手は到着を告げた。
「よき時間をお過ごしください」
「ありがとうございました」
バスを降りる際、後ろからかけられた優しい言葉に、振り返りながら答えた。
バスを降りると、そこは見覚えのある公園だった。
大学生の頃、一人で暮らしていたアパートの近くにある公園だ。
今はマンションが建てられており、この公園は存在しない。
そしてここは、ひかりと付き合った場所だ。
少し戸惑いながら、ゆっくり公園へ入ると、ブランコに乗っているひかりを見つけた。
ひかりしかいない公園で、ブランコに乗っている姿を見て、思わず涙がこぼれた。
それでも早くひかりに触れたくて、足早にブランコへと向かった。
「久しぶりだね」
1年9か月振りに聞くひかりの声は、記憶よりも暖かく優しかった。
「やっぱりブランコがない公園を、私は公園とは認めないな」
「まだ言ってる…ターザンロープがあればなお良し!でしょ?」
「そう!よく覚えてるね」
忘れるわけがない。ひかりに告白しようとして緊張しているときに、最初に話した会話だ。
そんなこと思っていると、何を話せばいいのかわからなくなる。
ふと、公園に落ち葉が散っていることに気が付いた。
「コウくんが付き合おうって言ってくれたの、10月だったじゃん?こんなに落ち葉あったっけ?」
「あったよ…恥ずかしくて、言いたいこと言えずにモジモジ落ち葉見てたの覚えてる」
「確かにモジモジしていた!コウくんは照れ屋さんだからね~」
いたずらっぽく笑うひかりの顔を見て、また涙がこぼれた。
「あれ?コウくんそんなに白髪生えてたっけ」
「ここでしょ?急に3本も生えてきて困ってる。年取ったな…」
「まだ29歳でしょ!自分は若いって思わなきゃ!」
ひかりの明るさと優しさは、この世の何にも例えられない暖かさを持ってる。
一言一言が、まるで俺を支えてくれるような何かがある。
「ちょっと歩こう?」
ひかりに手を引かれて、ベンチへと向かった。
「実はね、コウくんに会うの怖かったんだ」
ベンチに座ると、空を見上げながらひかりが話し始めた。
「真紀からメール来たでしょ。本当は、私から伝えなきゃいけない話なのは分かってたんだけど、逃げちゃったんだ。真紀につらい思いさせちゃったなって思って。でも、一番辛いのは、責めたい人がもういなくなっちゃったコウくんだよね。どんな顔して今日会えばよいのかわからなくて怖かったんだ」
「俺も、ひかりにどんな顔して会えばいいのかわからなかった。俺にできたこともあるだろうし、話さない選択をしたひかりに何を話せばいいのかわからなくて」
「そうだよね」
申し訳なさそうな顔をするひかりを見て、こぶしを握り締めるしかできなかった。
「実はね、病気が見つかったのは、コウくんに別れたいっていう3か月前だったんだ。一緒に浅草の花やしきに行ったの覚えてる?あの次の日に、健康診断の結果が家に届いて、再検査が必要って言われたの。ほら、私たちって若年性健康診断?だから細密検査をしてなくて、今までわからなかったんだけど、血液検査でわかるまでガンが大きくなっちゃってたみたい。それで再検査したら、ステージ4だって言われちゃった。まいっちゃったよ……だって2週間後にクッキー食べに行くって約束してたのに、いけなかったらどうしようって」
「あの時だったんだ…言ってくれればよかったのに」
「言うか悩んだんだけど、もう余命1年って言われちゃってたし、最後どんな姿で死ぬのかわからなかったから。ガリガリの骸骨みたいな姿で、コウくんに看取られるのも嫌だったし。それにコウくんは優しいから、自分のことは置いといて、私につきっきりになっちゃうでしょ?私が好きなコウくんの人生で、障害になるのが嫌だった。あとは、病気のことを言わないってことは、いつ行けなくなるかわからないデートの約束を、ずっとし続けるってことで。結構きついんだ……」
話しながら、ひかりが泣いていることに気付いた。
俺は全てにおいて、気付かなくちゃいけないことに気付くのが遅い。
「ごめん。ひかりが辛いと思っていることに何も気付いてなかった」
「ううん。私も言わないって決めたから。むしろバレないように過ごして、成功してる私がすごいね!」
「あぁ……ひかりは強いよ……かっこいい」
「でしょ!でも、いざ死ぬって時は、やっぱり怖いんだなって思ったよ。……怖いってのは違うか。寂しいかも。そうだ!本当に走馬灯って見るの!びっくりした!」
「そう…なんだ…」
涙が止まらなかった。ひかりのそばに居られなかった自分に腹が立った。
「私が見た走馬灯は、コウくんとの思い出ばっかだった。映画見に行って、だれよりも早く泣きだすコウくんとか、水族館でおいしそうって呟くコウくんとか。私、コウくんと一緒に水族館に行くの大好きだった。コウくんってペンギンのこと、ずーっと見てるでしょ。かわいくて好きなの!そのコウくん!」
ひかりが水族館を好きな理由を知って、また涙がこぼれた。
「とにかく、一生分のコウくんとの思い出が溢れてきて、私は幸せだったな…って改めて思えたの。そんな風に最後に思えるなんて、なんていい人生なんだろうって。全部コウくんのおかげなんだよ?だから、ありがとうって伝えにきたの。これからのコウくんの人生にもう私は必要ないけど、コウくんのおかげで、私は幸せだったよって」
ひかりが俺を見ていることはわかったが、視界が涙で覆われていた。
「俺は、もうすぐ2年経つけど、まだひかりがいない人生が辛くて仕方ないよ。ひかりがいてくれたから楽しかったことも、ひかりがいたから知ったことも。ひかりが初めて一緒に行った水族館で、ペンギンのぬいぐるみをかわいいって言ったから、ペンギンが好きになった。俺の世界にはいつもひかりがいた。急にいなくなって、世界が変わったんだ。色がなくなったような感じがした。でもいつかまた……って思ってたのに……」
こんな事言わなくていいのはわかってる。でも言葉が溢れてしまう。
ごめんねと繰り返し呟くひかりが小さく見えた。
「でも、ひかりにこうやって会うことが出来て、わかったことがあるよ」
一度深呼吸をする。
告白した時にも、同じように深呼吸したなと思い出した。
「ひかりにこの人生で出会えてよかった。ひかりがいなかったら俺は、こんなに幸せじゃなかったよ。チョコのおいしさだって、ペンギンの可愛さだって。知らないまま生きていくこともたくさんあった。でも、一番自慢できることは、ひかりみたいな人が俺の彼女だったんだぞ!ってこと。この場所で、気持ちを伝えた時の俺を抱きしめてやりたい。ひかりが俺の全てだったから、結構辛かったけど、それでもこれからも生きていく中で、ひかりと一緒に生きていけた時間があるってことが誇りだよ」
「私も……コウくんといられた人生で幸せだった……みんなに自慢するんだ……」
いつもみたいに、いたずらっぽく笑うひかりを見て、自然と笑顔になる自分がいた。
公園の周囲がだんだんと白く光りだしてきた。
恐らくそろそろ30分経つのだろうと思った。
「怖かったのに会ってくれてありがとう。ひかりと一緒にこれからも生きていく。ひかりみたいに…」
「コウくんはそのままでいいの。あなたは素敵な人だって私が保証する!だって、私の恋人だよ?」
「ありがとう…」
だんだんと、周囲の光が迫ってくる。
「コウくんは前を向ける!私の分も幸せになって!」
二人の足元まで光が包み始めた。
俺もひかりも笑顔で抱きしめった。
ひかりの匂いも、暖かさも、声も。全部が俺を包み込むようだった。
「本当にありがとう」
ひかりと同じ言葉を一緒に声に出していた。
気が付くと、元のバス停に戻っていた。
時計は24時を指しており、確かにひかりと30分会うことができたと思った。
積もらないと思っていた雪は、5cmほど積もり始めており、誰も歩いていない白い道が目の前に続いていた。
不思議と寒くない。
俺は、誰も歩いていない白い道を力強く踏みしめて歩いた。
翌日、昼ご飯を食べに、大将のいる定食屋へ向かった。
昨晩の雪がかすかに残るが、午前中の太陽でほとんど溶けたようだ。
「こんにちは!」
「おう!兄ちゃん!今日も唐揚げかい?」
「今日は生姜焼き定食ください!」
「めずらしいね!なんかいい事あったのかい?」
世界が明るく見える。
生きていこう。前を向いて。
ハンドル @kt24iihito
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