危険な異能力者と左遷された私は、最強ゴスロリ美人上司に溺愛されています。(※ちなみに女です)

葉川優希

第1話 心美は監禁され、ここに来た理由を思い出す。

 雨野心美あまのここみは、身体をロープで縛られていた。


「……え? な、なにこれ!? どういう状況!?」


 目が覚めて、見覚えのない薄暗い部屋。灰色の無機質なコンクリートがむき出しになってる部屋の中央で、心美は縛られている。

 動こうと思っても全身に上手く力が入らず、縄が固くしまっていて動けない。

 自由のきかない首と目を可能な限り動かして、ようやく1人の女性を見つけた。

 この処刑部屋のような空間に似つかわしくない、アンティークな椅子に座っている、ゴスロリファッションの銀髪の女性。


「あら、おはよう。思ったより早かったわね」


 濁った水すら清らかにしてしまうような、とても綺麗な声だった。垂れた紅い瞳が、みっともなく吊られた心美を捕らえる。


「こ、これ、なんですか?」

「それはロープよ。繊維を複数本より合わせて、頑丈に作った……」

「そうではなく! この状況! あなたは誰で、なぜ私はここに?」


 女は楽しそうにクツクツ笑うと、洒落たティーカップとソーサーを、小さな丸テーブルの上に置く。


「私は天馬零凪てんまれな。あなた、自分のことは覚えてる?」

「え? わ、私は……雨野、心美です」

「ええ、正解。それじゃあ、どうしてここで、のか、覚えてるかしら?」

「……いえ、まったく」

「ふふ、そうよね」


 零凪と名乗った女性が、あっさりと自分が心美を拘束した張本人であることを認めた。

 そして不意に立ち上がり、黒い手袋を片方だけ外して笑みを浮かべながら心美の頬を撫でる。



「わぷっ!? ちょ、何ですか!?」

「……あら、初々しい。ますます欲しくなるわね、貴女」

「え? え? ほしくなるって、どういうこと?」

「順番に思い出していきましょう? 落ち着いて、ゆっくりと」


 零凪の手袋越しの手が、そっと心美の頭に触れる。彼女の茶色の髪を梳くように流れるその手袋のシルクの質感は夢心地だ。こんな状況でなければ。


「え、ええと……私は、ここに来る前には……そう! 捜査をしてたはず」

「どんな捜査?」

「そりゃあ、事件の捜査ですよ」


 だんだん思い出してきた。警視庁捜査一課の雨野心美は、事件の捜査のためにとある廃工場におもむいていた。

 その現場には焼死体が1つあった。しかし、覚えているのがそこまでだ。


「……あれ? たしかそこに焼死体があって、それから?」

「それの捜査をしている途中で、あなたはの。だからこうして、今は私が管理してる」

「へ? どういうことですか?」


 一気にわからない状況が提示され、心美は説明を求める。しかし、何を面白がっているのか、零凪はそのことについて勿体ぶった応え方をした。


「そうね。まず、貴女は自分が異能力者になったことに気づいてる?」

「異能……? いえ、私、そんなはずないと思いますけど」


 昨今、全世界で発現した異能力は、人類の大きな課題として取り上げられるようになっている。全世界の約1%。100人に1人が何かの異能を持ち、それがいつ目覚めるか、どんなタイミングで発生するのかは分からない。

 心美のように、後発的に異能が出るケースも珍しくはないのだ。


「なるほどね。結論から言うと、貴女は目覚めてしまったみたい。それも、なかなか厄介な異能力ね」

「目覚めた? 私が異能に?」


 それとこの状態になんの関係が?

 そこがまったく見えないまま、話は進む。


「ざっくり言うわ。貴女の異能については、おそらく死者の遺した感情に共鳴する能力。そして、その力に飲まれた貴女は、死者の恨みの感情に飲まれ、同僚を襲ったの」

「へ!? 嘘!?」


 まったく覚えていない。心美は知らない間に、死人に乗っ取られていたというのか?


「嘘じゃないわよ。だから私がこうして触れている。私は、触れたものの異能を消す力を持っているから。今の貴女は危険だもの」

「危険……? そんなことないです。私はずっと、捜査一課の刑事として、事件を必死に追ってですね……」

「ええ、知ってるわ」


 微笑む零凪がまた髪を撫でた。


「ただ、貴女の異能のこととなると、まだ分からないことが多いの。検証する必要がある」

「な、なる……ほど……?」


 まだ分からないことだらけだが、ひとまず零凪は味方なのか、と分かり落ち着いてきた。

 スッと零凪の手が離れる。能力が発動してしまうようなことはなく、少し冷えた空気が流れて身震いした。


「あら、寒い?」

「あ、いえ、そんなことは……とりあえず、解けます?」

「ええ、もちろん」


 零凪は再び手袋をはめると、慣れた手つきで縄を解いていく。


「それから、貴女はこれから私と同じく、アビ係になったからよろしくね」

「え!? どういうことですか!? 私、一課じゃなくなったってこと!?」

「そうね。まぁ、これは仕方ないことだと思って。貴女に異能力があると分かった今、これは決定事項なの」

「というか、アビ係ってなんですか!? 私、左遷ですか!?」

「暴れないで。縄が締まるわよ」

「そんなことも言ってられないですよ! どうして私が――ぐへっ!」


 自分の体重を支えてくれていた縄がするりと解け、同時に冷たい床に叩きつけられる。


「大丈夫? 立てるかしら?」


 そっと差し伸べられた手を取り、何とかして立ち上がった。


「……大丈夫じゃないです。監禁されたかと思ったら、いきなり一課を追われてて……」

「可哀想な子。でも大丈夫よ、心美。私が守ってあげる」

「ど、どういうことですか?」

「ひとまず、気になることも多いと思うわ。移動しながら話すわよ」

「移動? どこに?」


 当然のように車のキーをチラつかせ、零凪は笑う。


「もう1度事件現場に。何が原因で貴女の異能が出るのか、きちんと調べないとね」


 ぽかんとしている心美を置いて、零凪はさっさと歩いていく。


「ちょ、ちょっと待ってください! 結局ここってどこなんですか?」


 そう言われて振り返り、零凪はまた笑顔を見せた。


「ここは警視庁捜査六課、アビリティ係の事務所。これから仲良くやりましょう? 雨野心美さん?」


 頭の中の疑問や疑念がすべて解決したとはとても言えない。

 それでも、この時の天馬零凪の蠱惑的な笑みに対してだけは、ただ頷くしかなかった。


――――――――――――――――――


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

タイトル、長いので「ごじでき」と呼んでください。

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2026年1月20日 18:30

危険な異能力者と左遷された私は、最強ゴスロリ美人上司に溺愛されています。(※ちなみに女です) 葉川優希 @jurisprince

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