『フレイザー先生は動かない』「天の逆手」
神田 るふ
第1話 耳の奥から響く音
また、あの音だ。
わたしの耳の奥から、不思議な音が響いてくる。
何かを打ち付けるような、叩くような、微かな音。
ここ二週間、わたしはこの謎の音に悩まされていた。
日時も場所も問わず、たとえ周りが雑踏の中でも、わたしの耳の中ではっきりと聞こえてくる、この奇妙な音。
もちろん、耳鼻科にも通院したが、耳の中を掃除されただけで終わった。
ひょっとしたら脳の病気かと怖くなり、CTスキャンも取ってもらったが、こちらも異常は無し。大学生には厳しすぎる検査料で一抹の安心を得たが、音の謎は確認できないのがもどかしい。
耳の中の音以外、身体に異常はない。
だが、就寝中にも音が響いてくるので睡眠が浅くなってきたのがつらくなってきた。大学の講義中に船をこぎ、隣に座る友人から何度も肘アタックで起こしてもらうことも多くなってきた。そろそろ、お肌や髪の毛にも影響が出てくるかもしれない。女性にとっては、深刻な悩みだ。わたし、まだ彼氏いないし。
もしかしたら、身体では無く心の病気かもしれない。社会心理学の講義を受けた時に、人間の心の構造には意識では感知できない無意識の領域があり、無意識の部分に異常があった場合、意識と、それに繋がる身体にも影響を及ぼすことがあるらしい。
そろそろ、カウンセリングを受けた方いいかも。
漠然とした不安を抱えながら、わたしは下校途中に友人数人とマックに立ち寄り、相変わらず耳の奥から届いてくる不気味な音に耐えつつ、それとなく、自分の耳の異常を相談してみた。
「それ、心霊現象じゃね?」
友人の一人が、そう切り出した。
「松岡さん、霊感とかある?何かに憑かれているとか」
「一人暮らしでしょ?もし、幽霊が憑いてたら怖いわー」
「今度、一緒に近くの神社にお参りに行こっか。あ、そうそう、ついでに神社の近くにできたカフェ、行ってみない?」
その後はカフェの話でもちきりとなり、わたしの耳鳴りの話はさらりと流れていった。
だが、わたしの耳には、あの奇妙な音と共に、心霊現象という言葉が不気味に残り続けていた。
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