その手が離れるまで
SeptArc
第1話 導かれる人生
その手は、いつも正しかった。
横断歩道を渡ろうとした瞬間、引き戻される。
直後、赤信号を無視した車が風を切って通り過ぎた。
階段を踏み外しそうになったとき、肩を掴まれる。
振り返ると、誰もいない。
進学、就職、人との出会い。
迷いが生じた瞬間、決まって“触れられる”。
声はない。
姿もない。
ただ、確かな圧と温度だけがそこにあった。
私はそれを「運」だと思っていた。
幼い頃、母に言われた。
「ユイは、手のかからない子ね」
それは褒め言葉だった。
選択を誤らず、危険を避け、転ばずに進む子供。
だが成長するにつれ、奇妙な感覚が残り始めた。
――私は、いつ決めた?
成功したとき、達成感よりも先に浮かぶ疑問。
失敗しなかった安堵の裏に、空白があった。
ある夜、夢を見た。
暗闇の中で、無数の手が伸びている。
どれもが私を掴もうとしていた。
だが、一本だけが違った。
迷いなく、強く、私の手首を掴んでいた。
「行け」
声がした気がした。
目を覚ましたとき、右手首に赤い痕が残っていた。
それが、最初の異変だった。
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