【悲報】私のピンチを救ってくれたクールな英雄たち、裏のチャットルームでは全員キモい限界オタクだった件。 ~固有スキル【不可避なる聖女の福音】のせいで、今日も国宝級の猛者たちが尊死しています~

あとりえむ

【第一章】S級英雄たちの過保護が加速して、欠陥住宅(標本箱)が世界一安全な聖域になりました。

第1話 氷の貴公子と、木登り猫少女の受難

鼻を突くのは、濡れた苔と腐葉土の湿った匂い。

深い森の奥、まとわりつくような重い空気に、ミミの喉はカラカラに乾ききっていた。


「ふえぇ……ここ、どこぉ……?」


自分の心臓が早鐘を打つ音が、うるさいほど鼓膜に響く。

頭上の三角耳が、怯え切ってぺたんと伏せられた。


ただ、視界の端をよぎった青い燐光――綺麗な蝶々を目で追ってしまっただけなのだ。

猫人族(キャット・ピープル)としての狩猟本能が、理性を置いてけぼりにして足を動かしてしまった。


そして気づいた時には、風向きが変わっていた。

森の青臭さに混じる、鼻が曲がりそうな悪臭。

古い油と鉄錆、そして洗っていない獣の体臭。



「ギギッ、ギャウ……」

「グルル……ッ」



草むらを掻き分けるカサカサという音が、全方位から迫る。

現れたのは小鬼(ゴブリン)の群れだ。

濁った眼球が、いやらしい粘着質を持ってミミの四肢を舐めるように見回している。


ミミは腰の剣に手を伸ばしたが、掌に滲んだ冷や汗のせいで、柄がぬるりと滑った。


(た、食べられる……っ!)


肌が粟立つほどの悪寒。

ミミは震える足で地面を蹴ると、目の前の巨木に爪を突き立てた。

樹皮のざらついた硬い感触を指先に感じながら、無我夢中で駆け上がる。

爪が剥がれそうな痛みなど構っていられない。


なんとか太い枝の上によじ登ったものの、下からは小鬼たちの飢えた吐息と、武器で幹を叩く乾いた音が響いてくる。

それに何より――。


「た、高い……降りられないよぉ……」


高所特有の風が、ミミの頬を冷たく撫でた。

登ったはいいが、降りる術がない。

ミミはささくれだった枝にしがみつき、ガタガタと震えることしかできなかった。


恐怖で膨らんだ尻尾を、まるで命綱のように自分の体に巻き付け、小さく「うぅ……」と喉を鳴らす。


その時だ。

世界から「音」が消えた。



――ピキキ、キィン。



耳を劈(つんざ)くような高い音が響いたかと思うと、肺が凍りつくような冷気が森を支配した。

さっきまで耳障りな声を上げていた小鬼たちが、一瞬にして物言わぬ氷塊へと変わり果てている。


死の臭いは消え、代わりに凛とした冬の朝のような、清浄な空気が満ちた。


カツン、カツン。

静寂の森に、重厚な金属音が規則正しく響く。

現れたのは、白銀の全身鎧を纏った長身の騎士。

王国の至宝と謳われる騎士団長、レオンその人だった。


彼は氷河のような瞳で、木の上にいるミミを射抜く。


「……降りてこい。手間をかけさせるな」


有無を言わせぬ重低音。

助けてもらった安堵よりも、その圧倒的な威圧感がミミの体を強張らせた。


ミミは「は、はいっ!」と慌てて枝から手を離し――バランスを崩した。



「にゃっ!?」



浮遊感。

地面に叩きつけられる衝撃と激痛を予感し、ミミはギュッと目を閉じて身を縮こまらせる。


ふわり。


予測していた硬い衝撃は訪れなかった。

代わりに、鋼鉄の硬度とは裏腹な、優しく包み込まれるような腕の感触。

そして、鼻腔をくすぐる冷涼なミントの香り。

恐る恐る目を開けると、そこにはレオンの整った顔が至近距離にあった。


レオンは表情筋一つ動かさずミミを地面に下ろすと、塵一つないマントを翻して背を向けた。


「森は危険だ。早々に立ち去れ」


それだけ言い残し、彼は一度も振り返ることなく去っていく。

遠ざかる金属音だけが、いつまでも森に残っていた。


「あ、あの! ありがとうございました……!」


ミミは深々と頭を下げた。

やっぱり、英雄と呼ばれる人は厳しくて怖い。


もっと強くなって、いつかあんな風に誰かを助けられるようにならなきゃ。

ミミはぽんぽんと尻尾についた土を払うと、まだ見ぬ明日へ向かって歩き出すのだった。





────────────────────

【裏トーク:騎士団の秘密チャットログ】


SERVER:至高のミミちゃんを見守る会(Online: 3)


@氷結の獅子(騎士団長)

あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!(絶叫)


@氷結の獅子

[画像:尊すぎて墓に入りピースしているライオンのイラスト]

[画像:天に召される絵文字]

[画像:合掌]


[System Alert] -----------------------------

User: @氷結の獅子 has donated 50,000,000 G.

Comment: "ミミちゃんの肉球保護基金"


@課金は酸素(魔導師)

団長が壊れた。しかも初手から5,000万。

まあ無理もありませんね。今日のミミちゃんのムーブは、我々の精神耐性(SAN値)を削りにくる神回でしたから。

この尊さに対する対価としては実質無料(タダ)みたいなもんです。


@公式カメラマン(暗殺者)


> > @氷結の獅子

> > 生きて。ログあるから。

> > [動画ファイル:tree_climbing_tail.mp4]

> > (4K 120fps 手ブレ補正済)

> > [音声ファイル:nya_scream.wav]

> > (ハイレゾ音源 ノイズ除去済)

>

>


@氷結の獅子

フカァァァッ!!!(蘇生)

神かよ。保存した。家宝にする。

ていうか見たか今の!?

尻尾を!

自分の体に!

巻き付けてたぞ!?


@氷結の獅子

あれは明らかに『守ってくれなきゃ泣いちゃうぞ』という高等な誘惑(テンプテーション)だ。

それにあの落下時の悲鳴。『にゃっ』だぞ!?

これは俺たちを殺しに来ている。間違いない、固有スキル『不可避なる聖女の福音イノセント・カタストロフィ』の精神干渉波動だ。

危うく俺の理性が蒸発して、あの場で婚姻届にサインさせるところだった。


@課金は酸素

相変わらず都合のいい解釈ですね。

しかし、あの『蝶々を追いかけて迷子』という導入……。

あれは計算ですか? それとも天然ですか?

もし計算だとしたら稀代の悪女ですが、ミミちゃんは方向音痴なだけの天使なので天然確定です。

とりあえず、彼女が二度と迷子にならないよう、GPS機能付きの首輪型魔道具を開発しようと思うのですが、予算申請しても?


@氷結の獅子

許可する。国家予算の半分まで使っていい。

デザインは可愛いやつな。絶対だぞ。


@課金は酸素

了解(職権乱用よし)。

あ、ちなみに団長。

さっきミミちゃんをお姫様抱っこしてましたけど、感触はどうでした?


User: @氷結の獅子 is typing...

User: @氷結の獅子 is typing...

User: @氷結の獅子 is typing...


@氷結の獅子

綿毛だった。

いや、空気だったかもしれない。

俺の腕力ステータスがカンストしてて本当に良かった。

もし筋肉が1ミリでも足りなくて彼女を落としていたら、俺は悔やんでも悔やみきれず、この国ごと自爆魔法で消滅していた自信がある。

あと匂いがした。日向の匂いだった。


@公式カメラマン

キッッッショ。

通報しました。

とりあえず、今日のミミちゃんの『ぷるぷる木登り』に対する投げ銭として、最高級マタタビ酒を森の出口に転送しておきます。


[System Alert] -----------------------------

User: @氷結の獅子 has donated 100,000,000 G.

Comment: "俺の騎士団の退職金(前借り)"


@課金は酸素

それはやめろ。


【作者より】

ここまで読んでいただきありがとうございます!

本編よりあとがきが長いじゃねーか!と思った方は、ぜひ目次からフォローとレビューをお願いします。

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ミミの公式イラストを近況ノートで公開しています。この可愛さが英雄たちを狂わせる元凶です。ぜひ一度見てみてください!」

https://kakuyomu.jp/users/atelierm/news/822139843516219098


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