天界配属管理局・異世界人材担当課~異世界志望者が多すぎて、今日も面接が終わりません

@Hitsuziya3

プロローグ

はじめまして。


この作品を開いてくださり、ありがとうございます。




本作は「異世界転生が当たり前になった世界の、その裏側」をテーマにしています。


転生を管理する側、選ばれなかった魂、そして信仰を失った神々。


そんな存在たちが、どんな日常を送っているのかを描いていけたらと思っています。




少し変わった視点の異世界ものですが、楽しんでいただければ幸いです。


ある日、未来ある若者は悲惨な死を遂げた。


事故だった。理不尽で、唐突で、救いのない最期だった。




その瞬間を、天界から見下ろしていた神がいた。




神は迷った末、彼の魂を拾い上げた。


ほんの気まぐれだったのか、それとも憐れみだったのか。


理由は、もう誰にも分からない。




神は、ひとつの能力を与え、若者を異世界へと送り出した。




若者は感謝した。


与えられた二度目の人生を、無駄にしないように生きた。




剣を振るい、魔法を学び、人を救った。


苦しみ、失敗し、それでも立ち上がり続けた。




やがて彼は、異世界で悪さをしていた魔王を討ち果たす。




世界は平和になった。


人々は彼を英雄と呼び、その名は歴史に刻まれた。




――それが、すべての始まりだった。




神の目的は、最初から一つしかなかった。


世界を、なるべく長く存続させること。




異世界は脆い。


魔王、天災、種族間抗争。


放っておけば、簡単に滅ぶ。




だが、地球は違った。




文明は安定し、人類は滅びかけながらも何度も立て直してきた。


人間より明確に強い知的種族も存在しない。


そのため科学技術も発展していた。




「人材」として見れば、地球人は極めて優秀だった。




だから神々は決めた。


安定した世界から、不安定な世界へ魂を送り、均衡を保つ。




それは合理的で、成果も分かりやすい方法だった。




しかし。




地球で「異世界転生もの」が流行してから、状況は一変した。




死ねば異世界へ行ける。


特別な力をもらえる。


英雄になれる。




そんな幻想が、魂の間に広まった。




結果――天界に、志望者が溢れ返った。




雲の上に建てられた巨大な施設。天界配属管理局。


そこには、行き先を決められない魂たちが集められている。天国志望、異世界志望、保留。廊下では順番を待つ魂たちが長椅子に座り込み、番号札を握ったまま天井を見上げていた。




「なあ……もう三年目なんだけどさ」


「まだマシだろ。俺なんて五年だぞ。転活、全然終わんねー」


「最初はチートもらって無双、って思ってたんだけどな……」




参考書を閉じた魂が、力なく笑う。


「資格、三つ取ったのに落とされた。“世界観理解が浅い”だってさ。死んだあとに勉強させられるとは思わなかった」


「天国は倍率高すぎるし、スローライフ系は実績必須だし……」


「もういっそ、ランダム転生でもいいかなって思い始めてる」




その言葉に、周囲が一瞬だけ静まり返った。


「……それは、最後の手段だろ」


「わかってる。でもさ」




魂は雲の向こうを見つめる。


「生きてた頃より、真面目に将来考えてる気がするんだよな」




乾いた笑いが、廊下に広がった。番号を呼ぶ声が響き、また一人、魂が立ち上がる。転活は終わらない。それはさながら、生前の就職活動のようだった。資格を取る魂もいれば、何度も面接に落ち、転生活動――転活を続ける者もいる。




死後の世界は、想像していたほど優しくはなかった。選ばれなければ、無に還る。もしくは、記憶を消され、ランダムな生物として転生する。天国や異世界へ行けるのは、ほんの一握りで、人気の配属先は常に倍率が高い。




そして今、最も混雑している部署がある。――異世界人材担当。そこは、信仰を失った神々が集められる課だった。人に祈られなくなった神、名を呼ばれなくなった神、役割を終え、居場所を失った神々。彼らは消えはしないが、かつての場所に留まることも許されなかった。行き場を失った神々に与えられたのが、天界で最も忙しいこの部署だった。




今日もまた、神々は机に並び、書類をめくり、魂の行き先を決めている。


「次の志望者を呼んでください」


面接室のあちこちで、同じ言葉が繰り返された。それは、かつて祈りを受け取っていた存在の声だ。




そして、その一室。


かつて火を司り、人が炉を囲んで祈りを捧げていた時代の神が、静かに書類を置いた。




――炉の神:カトロア。




信仰を失った今もなお、彼女はここで魂の未来を選別している。


そう神々の転活もまた終わらない。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




少し変わった視点の異世界ものですが、


楽しんでいただけたでしょうか。




よければ、感想や評価をいただけるととても励みになります。


今後も、できる限り毎日投稿を目標に続けていく予定です。




お時間のあるときに、また読んでいただけたら嬉しいです。

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