第5話 日独の整備士達

 整備士たちが一斉に動き出した。

 日独の整備士達は、協力してメッサーシュミットを格納庫の中に入れ、飛燕と並べた。

 その後は、それぞれの機体に取り付き、エンジンを外し始める。

 無謀とも言える作戦だが、日独の整備士たちは迷いもなく、流れるように作業を進める。


「コックを閉じた後、燃料パイプを外せ」


「冷却水を捨てるぞ。バケツで受け止めろ!」


「燃料コックを閉めるのを忘れるな」


「配線を外すときは注意しろ! 絶対断線させるな!」


「スロットルのワイヤーを外すぞ」


 言葉は通じなくても、全員が何をすべきか理解していた。

 燃料、冷却、制御、配線、すべてを外し、組み替え、締結し、調整する。


「残り九〇分!」


「飛燕より取り外し完了!」


「こちらもメッサーシュミットから外せた」


 あっという間にエンジンを外してしまった。

 すぐに熱田が下ろされ、DB601がクレーンにつながれる。


「DB601を取り付けるぞ!」


 いよいよ飛燕にDB601を取り付ける。

 だが、機体に載せたとき問題が起きた。


「支持架にネジが入りません!」


 エンジンと機体をつなぐネジが入らない。


「俺がやる!」


 颯太が代わりにはしごに登り、エンジンに取り付く。

 上下にエンジンを動かし、ネジが入る場所を探す。


「ここだ」


 ネジの頭が入る感触に気がつくと、すぐに手で回す。


「インパクトを」


 颯太が言うやいなや、ネジを回すための機械が手渡される。

 機械を使って颯太は手早くネジを締めた。


「トルクレンチ」


 指示された力で締め上げるためのレンチを求めると、ハンスが投げて渡した。

 ネジにトルクレンチを当てて力を入れる。


「よし、いいぞ!」


 カチンという音と、手から伝わる反発が、適正な力でネジが締まったことを教えてくれる。


「エンジンの固定完了! 接続作業を続けろ!」


「はい!」


「残り一時間!」


 再び整備士達が駆け寄り、作業を進める。

 燃料系、冷却系、制御系――すべてをつなぎ直す。

 出番である展示飛行までの短時間で終えなければならない。

 だが、ドイツ人整備士も加わり、作業は早かった。

 そして互いに、自分のエンジンと機体の構造を、どのタイミングで何が必要か分かっていた。

 互いに次はどのように動かすか分かっているので、必要な道具を最適なタイミングで渡してくれる。


「冷却水入れろ」


 ピンク色の冷却液が甘いにおいを放ちながら注がれていく。


「空気抜きは徹底しろ。オーバーヒートしたら終わりだぞ」


「配線を繋ぐのを間違えるなよ! コネクタは慎重に入れろ! 壊したら終わりだ!」


「ここのカムが摩耗している。交換部品をくれ」


 時間のロスなく、作業は進んでいく。


「運営より状況報告が求められています」


「予定通り飛行を行うと言え」


 静かに颯太が言った。

 全員を信じ作業を命じるだけだ。

 ふと、外を見ると先ほどより観客が増えていた。

 ただ先ほどと違い観客の視線の色が変わっていった。

 不安そうな視線から魅入られるような視線を浴びせてくる。

 交換作業をする日独整備士の姿に、流れるような作業をまるでロックの生演奏か、最高のエンターテイメントのように熱い視線を浴びせてきた。

 その熱量は時間が経つにつれて上がっていく。

 これだけ大勢の人間が熱心に見てくれる作業だ。

 絶対に成功すると確信していた。


「残り十分!」


「エンジン交換完了!」


 カバーが掛けられ、整備士が報告すると颯太は命じた。


「エンジン始動!」

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