僕の手は小さい

レクト

お神輿

 僕の手は小さい。

 お母さんより小さい。

 お父さんより小さい。

 タツノリ君より小さい。

 ハナちゃんよりは大きい。


 僕の手は大きくなるのだろうか。


 ――


「今度のお祭りでお神輿を担ぐぞ」


 仕事から帰ってきたお父さんが楽しそうにそう言った。


 お神輿って何?って聞くと


「あー……、なんだろうな。こうキラキラしてて、皆でワーッと持ち上げて騒ぐんだよ」


 なんだか楽しそう!


 でも僕の手で持てるかな?


「大丈夫、お父さんに任せておけ!」


 そうして僕はお父さんに抱き上げられる。


 もう小学生何だし恥ずかしい。


 でもちょっとだけ嬉しかった。


 ――


「お祭り楽しみだなぁ!」


 学校でタツノリ君がウキウキしていた。


 タツノリ君は体が大きい。


 身長だってお母さんと同じ位ある。


 僕もタツノリ君くらい大きければなぁ。


「一緒に行こうぜ!」


 一緒に行く約束をした。


 楽しみだ。


 ――


 お祭りの日は、法被、というのを着せてもらった。


 お父さんも着ている。


 お母さんは着てない。


 お父さんとお母さんと一緒にお祭りに向かう。


 夜に出かけると、どうしてこんなにワクワクするのだろうか。


 昼みたいに明るい会場に、電車の中みたいにたくさんの人がいる。


 お店を見て回りたいけど人が多すぎて見えない。


「肩車してやりたいけど、さすがに小学生は無理だわ……」


 お父さんが残念そうな顔をする。


 家では抱っこしたくせに。


 お父さんとお母さんに連れられてお参りをする。


 お金を箱に入れて鈴を鳴らす。


 パンパンと手を叩いてお辞儀をする。


 お父さんのやり方を見て真似をする。


「じゃあ神輿のとこに行くぞ」


 ――


 お神輿は本当にキラキラしていた。


 いろんな飾りが着いていて、大きくて、見ているだけでワクワクする。


 お神輿が置いてある場所には法被を着た人たちが集まっていた。


 タツノリ君もお父さんと一緒にいる。


 僕もお父さんを見る。


「よし、やるぞ!」


 お父さんや大人の人たちがお神輿を囲む。


「いっせーの!」


 ぐわっと、お神輿が動いた。


 いよいよ僕もあれに加わるんだと思うとドキドキした。


「子どもたちはこの辺りを握ってね」


 子ども用の場所に案内されて、眼の前の場所に手をかけた。


 固い木の感触がした。


 大人たちが持っているからか重さは感じない。


 思い切って力を込めてみる。


 ビクともしない。


「では出発!」


 お神輿が動き始めた。


 ――


「わーっしょい!わーっしょい!」


 掛け声と共にお神輿は進んでいく。


「わーっしょい!わーっしょい!」


 僕も声を出して頑張る。


 ついて行くだけでも大変だけど、悔しいので力いっぱい握りしめる。


「わーっしょい!わーっしょい!」


 手が痛い。


 思わず離してしまう。


 お神輿は倒れない。


 みんながお神輿を担いで進んで行く。


 僕の手がなくてもお神輿は進む。


 僕の手は必要なんだろうか。


「ほら!行くぞ!」


 タツノリ君が僕を呼んだので、もう一度お神輿を握る。


「わーっしょい!わーっしょい!」


「わーっしょい!わーっしょい!」


 ただただ夢中だった。


 ――


「お疲れ様でしたー!」


 お神輿の時間は終わり。


 置かれたお神輿の周りで皆が笑っていた。


 お母さんからジュースを貰ってグビグビと飲む。


 冷たいジュースが気持ちいい。


 赤くなった手にその冷たさが染みる。


 僕の手を見る。


 赤くなった手を見る。


 タツノリ君の手を見る。


 お父さんの手を見る。


 僕の手は小さい。


 きっとお神輿に僕の力は必要無かった。


 でも僕はお神輿を持った。


 今、手が痛いのがその証拠だ。


 僕はいつか大人になる。


 そしたら手も大きくなる。


 たくさんの人がお神輿を担いでいるのを見てそう感じた。


 冷たいジュースをもう一口。


 ただ、もう少しは子どものままでもいいかな。


 しばらくは重たいものは持ちたくないや。

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