最終話「角無き信仰心」

荒らされ、思い出も何もかもを失った部屋で、俺は一人嗚咽していた。

泣いたところで、誰も気にしない。

道端のゴミが、どうやって人の同情を誘えるだろうか。


今ここにあるのは、あいつらへの劣等感でも、思い出を守れなかった自分の弱さでもない。

ただ——ツノだけに向けられた、過度な憎しみだった。


無「……ツノがある……」


喉の奥から、言葉が漏れる。


無「……ツノがあるやつは……」


呪詛のように繰り返すたび、頭の奥が焼けるように熱くなる。

何かを考える余地は、もう残っていなかった。


ふと、割れた鏡が視界に入る。


そして——俺は、見た。


無「あ……」


半透明で、幾重にも折り重なるように生えた八つの長いツノ。

今まで憎み、耐え、飲み込んできた全ての元凶が、そこにあった。


無「……あは」


笑いが、こぼれる。


無「アハハハハハハハ!!!!」


遅すぎる。

あまりにも、遅すぎた。


もっと早く生えていれば。

もっと早く、知れていれば。


——いや。


無「……もう、いいや」


悩む必要なんて、最初からなかったのだ。


ツノは、俺の意思を待つように、静かに蠢いている。


無「……もう、なんでもいい」


世界がそう言ってきたのだから。

俺も、そうするだけだ。


無「……ツノがあるやつは、全て」


言葉は、そこで止まった。


割れた鏡の中で、

ツノを戴いた“異常”が、こちらを見返している。


この世界で、

信仰されていたのはツノだった。


——ならば。


俺は、何になるのだろうか。

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アブノーマリティ なきぱま @Nakipama88

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