この夜を、あなたに

m1na

第1話 情夜灯

「はぁ、そろそろここにいるのも飽き飽きじゃ。魔王。もっと楽しいところを妾に教えるのじゃ。」


3つの月が幽遠と照らす黒色の城のテラスで、小さな少女が横暴につぶやいた。

そのものの名はニュクス。その世界を夜を統べ、悠久の時を支配した絶対王者がそこにたたずんでいた。


「君はもう、この世界のすべてを訪れているよ。世界は移り変わらないのだからもう君にとって新しいものは存在しないだろうさ。」


それは、世界の管理者としてどこか安心しながらも悲観しているような重い言葉だった。


「む。そうか。我は矮小な存在だと思っていたのじゃが、思っていたより大きくなってしまったらしいの。」


「体はちっちゃいまんまだけどね。あ、そうだ。他の世界に行ってみてはどうだい?私は、この世界の管理者だから無理だけれど、役職のない君なら問題ないだろう。」


そういって、魔王と呼ばれた存在は、指をパチリと鳴らして黄金色に輝く小さな紙切れを生み出した。


「ふん。それが別の世界への片道切符か。軽口じゃな。だが――この退屈が消えるなら、よい。」


「はは、たまにはこういう軽口も言ってみたくてね。何せ僕と対等かそれ以上の存在は、右手で数えても余るからね。指の方が。」


「まぁ、よい。さっさとその紙切れを渡せ。それで今までの無礼を帳消しにしてやる。」


「はいはい。おっかないね。じゃ、バイバイ。」


そう言って、魔王は紙切れをニュクスに渡した。その瞬間、ニュクスの体は消え、異なる世界へとその身を移すのだった。






Side 灯


静かに揺れる駅構内。死んだ目をした社畜が一人。閑散とした電車から解放され、やっと家に帰れることに静かな喜びを覚えていた。


「ああ。今日もおはよう。」


日が昇りかけていることに若干の絶望を覚えながら、いつも会う高校生に挨拶をする。


「あ!灯さん。今日も夜勤ですか。」


元気に返事をしてきたのは現役高校生の優斗だ。夜勤の日はいつも会うからついつい挨拶をしてしまうが、こいつに挨拶をすると時々10分くらい睡眠時間が減ってしまう。

まぁ、話しかけたのは私だから、返事をしないわけにも置かないんだけどね。


「うん。今週は夜勤でね。君もがんばってね。」

「はいっ。頑張ります。灯さんもちゃんと寝てくださいね。目の下のクマすっごいことになってますからね。」


「うん。一応、善処するね。」


そんな感じで適当に返事をして駅を出る。向こうは忙しかったのだろうか?

まぁ、いつものように睡眠時間が削られることはなかったからいいけど。




「ついた。ごはんは――起きてからでいいや。一旦寝よう。」


いつもご飯は2食だ。単純に忙しいからであり、決してさぼっているわけではない。最近ちょっと肌が荒れている気がするけど許容範囲ッ。

そんな思考をしてても体は勝手に動いてベッドにイン。ああ、疲れが抜けてくよぅ.....


あ、シャワー浴びてな....


「ふむ、ここが新しい世界か。」


「ふへっ?―ぐへぇっ。」







Side ニュクス


「まさか、転移して早々人を踏みつけることになるとは、」


どうせどこかの教会にでも飛び、転移して油断したところに聖属性魔法でも打たれるのかと思っていた。しかし、人の上に飛び、踏みつけて気絶させるとは思ってもみなかった。


『おい、魔王。これはどういうことだ。』

『ん?ニュクス?どうしたんだいって痛ぁ。』

『貴様の転移位置が悪かったせいで人の子を踏みつけてしまったではないか。』


気分が悪いので、2発だけ殴っておく。

内訳は、周辺の魔力が希薄すぎて咄嗟に魔法を行使できなかった妾の分と、

こんな場所に転移させた魔王の分だ。


『急に殴ってこないでよ。なんで次元の壁を越えて攻撃できているかは知らないけどさ。こっちは君に親しみやすい者のそばで転移するようにしただけだから文句言わないでよ。』


『.....なら、よい。迷惑をかけた。こっちはどうにかする故、気にしなくてよいぞ。』

『うーん。色々聞きたいことはあるけど、またにするよ。じゃあそっちでの生活頑張ってね。』


聞きたいことは予想はつくが答えなくていいだろう。どうせ奴の事だ何十年もすれば勝手に真似るだろう。


「それよりも、妾が何もしなかったとしても死にそうじゃった。こ奴の処理からじゃな。」


一応、回復魔法はかけてある。

が、こ奴の場合は、睡眠不足が大きい。


「仕方あるまい。〈暗黒譲夜〉。」


触れた相手にこちらの望む夢を見させる権能スキル〈暗黒譲夜〉。基本的には相手に悪夢を見せる権能だが、今回は休めるように幸せな夢を送る。初めての使い方だがあっているだろうか。


「まぁ良い。こんな日も悪くはない。」


どうせ、誰も聞いてはいない。寂しさと退屈を紛らわすための独り言だが、これからはいらないかもしれない。


「たまには寝るとするか。」


これもまた一興だ。

こ奴が寝ている布団に寝そべり。夢が解けぬように手を結び。

閉じぬ瞼をそっと手のひらで閉じ。久しい感覚に身をゆだねようではないか。

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