それが愛でしょう?
@ys194
短編小説 それが愛でしょう?
俺は自分をダニだと思っている。
英雄でも勇者でもない。誰かに取り憑き、命を吸い、危険が迫れば真っ先に逃げ延びる存在だ。
それでも――俺は必ず生きて帰ってきた。
どんな依頼でも、どんな死地でも。
剣が折れ、魔法が尽き、仲間が血に沈んでも、最後に立っているのはいつも俺だった。
強いからじゃない。
むしろ逆だ。俺は誰よりも臆病だった。
怪しい足場は踏まない。
戦況が傾けば即座に退路を確保する。
勝てる戦いしかしない。
それだけを徹底した結果が、生還だった。
だが、その真実を知る者はいない。
なぜなら――皆、死んだからだ。
ダニというのは自称だ。
周囲の冒険者たちは、俺をこう呼ぶ。
死神。
俺をパーティに加えると、必ず全滅する。
噂は広まり、やがて誰も声をかけなくなった。
それでも稀にいる。
噂を知らないモグリか、死神を試したい愚か者が。
俺は今日も、他の誰のためでもなく、自分のためだけに生き残る。
――その日までは。
ある日、死神の噂を聞きつけた一団が、俺を誘った。
本来は簡単な依頼のはずだった。
だが、想定外の強敵が現れ、戦況は崩れ続けた。
それでも、全員生きていた。
「なあ、死神なんて噂だけだな」
誰かが笑った。
「俺たち、誰も死んでないぜ」
皆が頷き、最後に彼女が微笑んだ。
「次の依頼も、一緒に行こう?」
胸の奥が、わずかに軋んだ。
輪の中にいる。
拒絶されていない。
悪くない――そう思ってしまった。
だが、死神の異名は伊達じゃない。
次の戦いで、俺は生き残った。
俺を残して、全員が死んだ。
初めて「居場所」が出来るかもしれないという期待は、音もなく折れた。
悲しみの中、俺は歩いた。
気づけば、見知らぬ場所に立っていた。
なのに、懐かしい。
巨木が一本、空き地に横たわっている。
誰もいないはずなのに、歌が聞こえた。
子守唄だ。
母が子の幸せを願う、祈りのような歌。
記憶が、溢れた。
女と男。
女の腕には赤ん坊。
「私たちの可愛い坊や。天寿を全うするまで、健やかに、自由に生きてね」
晴れていた空が、突然泣き出す。
赤ん坊から、何かが溢れ出て、両親に吸い込まれた。
だが、ただの人である二人は気づかなかった。
母が洗濯物を取りに外へ出る。
父が追う。
雷鳴。
落雷。
巨木が倒れ、二人を押し潰した。
死の間際、母は泣いていた。
だが、家から聞こえる赤子の泣き声に、微笑んだ。
「……あの子は無事……なら……私の願いは叶った……だって……それが……愛でしょう?」
現実に戻る。
「……そうか。今まで、ありがとう」
俺は一人で歩き出した。
母の歌に縋りたい気持ちを、振り切って。
次の依頼で、俺は初めて怪我をした。
「……痛いな」
だが、不思議と笑えた。
「でも……生きてる」
俺は今、巣立ったのだ。
ダニとしてではなく、
死神としてでもなく――
ただの、生きる者として。
それが愛でしょう? @ys194
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