デッド・ワーク!

片霧 晴

第1話 腐っても同僚


 新しい年号にかわって云十年。西暦でいうと、ええと何年だっけ。まあ何年でもええわ。


 新卒で入社した会社は正直すぐに辞めるつもりだった。それが何の因果か、これといった大きな揉め事もなく勤め続けている。


 とりあえず、世界は大きく変わった。少なくとも自分はそう感じている。



七ツ田ななつだ係長、頼まれた資料は此処に置いておきますね」

「ありがとう。助かるよ」



 昼過ぎ。会議の為に席から立ち上がると、後ろから絶妙なタイミングで声をかけられた。頼んだ資料が空きスペースに置かれ、女性社員は丁寧に頭を下げる。


 自分で頼んだとはいえ、その山積みの資料に辟易した。念の為に冊子を数枚捲ると、資料の間に小さな指が挟まっている。



小指こさしさん。指。指落としてるよ」

「え? あっ、やだ……! いつもすみません……」

「いえいえ」



 恥ずかしそうにそれを摘み上げると、資料には彼女の指の跡がくっきりと残っていた。聞いた話によれば指は取れやすいというし、こればっかりは仕方がない。


 時刻を確認すると、視界の端では課長が会議室へ向かうのが見えた。動線上にある空気清浄機が一斉に動き出す。臭い。もう数台増やしてくれないだろうか。



「いやあ、課長の腐敗臭は今日も凄まじいッスね」

「井手君も言えば? 同じ人間ゾンビなんだからゾンビハラスメントにはならないでしょ」

「流石に上司に臭いっていうのは……」



 若干顔を引き攣らせながら頬を掻くと、脆い部分の皮膚がぼろりと落ちる。


 世界は大きく変わった。少なくとも、人間と人間ゾンビが一緒に働いてるなんて、一体誰が想像できようか。



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