染色
緋心が退学して3ヶ月が経った。
緋心が人を魅了する力は想像以上で、
彼女につられて退学した者が数名いた。
黒田もその中の一人だ。
紺野は仲が良かったメンバーが
失踪や退学でいなくなってしまい、
酷く落ち込んでいた。
かつての明るさはなく、休み時間は
ひとり、窓の外を眺めている。
見るに見かねた蒼馬は
放課後、教室に二人だけになってから
紺野に話しかけた。
蒼馬「紺野、元気ないけど大丈夫か?」
紺野「蒼ちゃん…ありがとう。元気だよ。
ただ、私、後悔してるの。」
蒼馬「後悔?何を?」
紺野「緋心ちゃん以外の三人とは中学から
ずっと仲良くてさ。高校も卒業まで三人で
馬鹿やって過ごすんだって思ってた。
…こんな事言いたくないけど、緋心が
転校してきてから全部が変わっちゃった。
パパ活だって、皆そんな事する子達じゃ
なかったの。お金が欲しいからバイトを
始めなきゃって話になった時…あの子が
急にパパ活の話を出してきて。
自分はやらないけど、友達がやっていて
いい時は月100万稼げるらしいって。
それで三人とも始めちゃったの。
苺花以外は私が止めてすぐに辞めたけど、
今こんな事になってるのはパパ活が
きっかけなんだと思うし…
他にも引っかかることがあるし、
あの子と関わってなかったらって…
毎日考えちゃうんだ。」
紺野は泣きながら話してくれた。
蒼馬は、パパ活を始めたきっかけが
緋心の話だと知り、驚いた。
白石が失踪した時、他の三人も
パパ活をしていたと知った緋心は、
信じられないというような反応を
周囲に見せていたからだ。
蒼馬「あいつ…何にも知らなかった
感じで話してたじゃないか!」
紺野「私もそこからあの子に違和感を
覚え始めたの。それに…居なくなった
二人が最後に一緒に居たのって
緋心ちゃんじゃない…?
これって偶然なのかなって。」
蒼馬「紺野。詳しい事は言えないけど、
その感覚は正しいよ。ただ、他の誰かに
この話をしても、皆が彼女を庇うと思う。
この先、緋心から連絡が来ても
絶対に会っちゃだめだ。もしどこかで
偶然会ったら人がいる場所に行って。
何があってもあいつと二人になるな。」
紺野「うん…わかった。蒼ちゃん、
やっぱりあの子が関わってるのね。
蒼ちゃんは何を知っているの?
昔…おじさんと事件を調べてたけど
それと何か関係がある?」
蒼馬「紺野を危険な目に合わせる訳には
いかないから、これ以上は話せない。
ごめんな。でも、これだけは言える。
あいつは人間じゃない。かろうじて
人の形をしているだけの悪魔だ。
だから…お願いだから、俺を信じて
あいつとは一切関わらないでくれ。」
そう言って、鞄を肩にかけて
帰ろうとする蒼馬を、紺野が制止した。
紺野「待って!これ、手がかりになるか
わからないけど…よかったら使って。」
そう言いながら、
1枚のメモを渡してきた。
そこには
【白石苺花 梶白百合】と
書かれていて、名前に丸が書かれている。
蒼馬「行方不明の二人の名前に丸…
これ、どういう意味?」
紺野「ただの考え過ぎかも知れないけど、
何であの二人だったんだろうってずっと
考えてたの。
見て、二人の名前。花の名前よ。
苺の花も、百合も、白い花が咲く。
百合は他にも色があるけど、真っ先に
思い浮かぶのは白よね。
…緋心ちゃん、言ってた。
花の染色が好きだって。
始めは変わった趣味だなって思ったよ。
でもあの子頭がいいし、特に理科科目
全般が好きだって言ってたから
特に疑わなかったわ。
でも今思うと…もしあの子がいう『花』が、
白い花を持つ人だという意味だったら…
二人が狙われた理由になるのかなって。」
紺野の考察と、緋心が最後に残した
「でも…惜しいわ。私のキャンバスは、
そこじゃないの。」という言葉が
ぴったりと重なった。
蒼馬「紺野!凄いよ、大正解だよ!
まだ白い花の名前の人がいるのなら、
狙われる可能性がある。
…次の被害者がわかるかもしれない。」
蒼馬と紺野は、全学年の教室を回り、
クラス名簿を確認した。
全て確認し終えたが、他のクラスや
学年に、花を由来とした名前の人物は
いなかった。
自分達の教室に戻り、
蒼馬はほっとして、はぁ~…と
安堵の息を吐き、担任の椅子に座った。
紺野は、険しい顔つきで
クラス名簿を手に取り、広げた。
蒼馬「まさか…同じクラスに三人も
花の名前が付く人がいるわけ…」
そう言いかけたその時、
紺野は無言で一人の名前を指さした。
紺野の指は、名簿の右上にある。
蒼馬は指が示すその先を見て
腰を抜かした。
そこには
【担任:沼田 蓮】と書かれていた。
蒼馬「嘘だろ…蓮って……蓮の花か。
確かに、学校の池の蓮も白い花だった。」
紺野「次は先生が…」
蒼馬「ちょっと待って…先生って明後日
休みじゃなかった?まずいかも…。」
紺野「先生の家、探さなきゃ。探して
明後日の行動を見張るしかないよ!」
二人は次の日の放課後、
担任を駐輪場で待ち伏せし、
同じ電車の隣の車両へ乗り込んだ。
蒼馬が通学に使う路線とは
別の路線を使っていた。
担任が降りるのを確認し、
二人はバレないように距離を置き、
後をつける。
そして、駅から歩いて2分ほどの
場所にあるアパートへ入っていった。
蒼馬「よし、あそこが家だな。
明日は休んで一日行動を確認するわ。
紺野はいつも通り、学校に行って。
もしもの時は連絡するから、
警察を呼んでほしい。」
紺野「わかった。絶対に死ないでよ、
蒼ちゃん。蒼ちゃんまで死んだら…
おばさんひとりぼっちになっちゃう。」
紺野は目に涙を溜めている。
蒼馬「大丈夫。そのための紺野だろ?
頼んだぞ!」
蒼馬は優しく声をかけ、
ポケットのハンカチを差し出した。
紺野と駅で別れ、帰宅して
夕食や風呂を素早く済ませた。
明日、先生が出かけるとしても
時間が読めない。
もしもに備えて、早くアパート付近に
到着していたいと思い、
21時にはベッドに入った。
蒼馬「先生…どうか一歩も家から
出ないでくれ…」
張り込みが無駄になろうとも、
無事に越したことはない。
蒼馬は何もありませんように、と
願いながら眠りについた。
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