インナーカラー
夜宵
夢
「ふあぁ〜……」
蒼馬は、電車に揺られながら
腕をめいっぱい伸ばして背伸びをし、
大きなあくびをした。
秘境駅を利用しているので
車内はいつもほぼ貸切状態。
この退屈な通学時間も
同じ方向から通う友達がいたら
楽しいんだろうなぁ…
見慣れた風景をぼーっと見つめ、
そんな事を考えていた。
『次は、夢裡駅(むりえき)、夢裡駅に
止まります。』
車内にアナウンスが流れ
駅名を聞いた蒼馬は、
「降りる駅までまだ20分もある…」
と呟くと、
イヤホンを付け、音楽を小さめに流し、
椅子の脇にある柵に寄りかかって
降りる駅まで眠ることにした。
段々と眠くなり、
1曲目が終わる頃には
眠りについた。
蒼馬は、夢を見ていた。
普段は滅多に夢を見ないのに。
蒼馬は夢の中でも電車に乗っていた。
現実と同じ、柵がある端の椅子へ
座り、寄りかかりながら
一人で音楽を聴いている。
『次は、夢裡駅、夢裡駅に止まります。』
寝る前に聞いたアナウンスが
夢の中でまた、流れた。
まだ降りる駅まで時間があるな…と
ため息をつきながら遠くを見つめる。
次第に電車がスピードをゆっくり
落とし始め、夢裡駅に止まった。
この駅からは、誰も乗ってこない。
発車を待っていると、ブザーが鳴り、
閉まる直前に誰かが入ってきた。
誰も乗ってこないはず…
蒼馬は驚いてその人の顔を見た。
制服を着た女の子だ。
この辺では見た事のない制服…
身長は、女子の中では高い方。
ブラウスの袖を少し折っていて、
華奢な腕にはべっ甲の腕時計が輝く。
髪型はボブで、黒髪に真っ赤な
インナーカラーがよく似合う。
目元がぱっちりと大きく、小顔だ。
綺麗で可愛らしい子だった。
蒼馬は一瞬で目を、心を、奪われた。
彼女は蒼馬からの視線に気付き、
3秒ほど見つめてから
蒼馬が座っている向かいの椅子の
反対側に座り、柵に寄りかかった。
目が合って、真正面から見た
彼女の可愛らしさに
蒼馬は顔を真っ赤にして
下を向いた。
ドアが閉まり、電車が走り始めると
彼女が反対側から
「ねぇ」と
声をかけてきた。
蒼馬はびっくりして
「はい!?」と大きな声で返事をした。
彼女はにこっと笑い、
「私、赤が好きなの。ただの赤じゃない、
鮮血のような真っ赤が好きなんだ。」
と、突然好きな色の話を始めた。
蒼馬「そ…うなんだ……。あ、だから
髪も赤くしてるんだね。綺麗な色。」
「嬉しい!ありがとう。私の名前は
内赤緋心(うちあか ひこ)。あなたは?」
蒼馬「緋心ちゃん…俺は蒼馬。
青崎蒼馬(あおさき そうま)です。」
緋心「蒼馬くん、ねぇ、友達にならない?
隣に座ってもいい?」
蒼馬「も、もちろん!俺でよければ
友達に…!隣、どうぞどうぞ!!」
こんな可愛い子から友達になりたいと
言われるなんて…
蒼馬は舞い上がっていた。
そして、緋心が隣に座り、
顔を近付けてきた。
蒼馬が顔を真っ赤にして
目を閉じたその時
今まで嗅いだことのないほど、
生臭く、異様な匂いが鼻を突いた。
「うわぁぁぁ!!!」
あまりの激臭に、蒼馬は
大声をあげて飛び起きた。
夢から醒めてもまだ鼻に残っていて、
思わず鼻をつまむ。
せっかくいい夢だったのに台無しだ…
夢なら最後までいい夢を
見させてくれよ…
蒼馬は頭を抱え、下を向きながら
大きなため息をついた。
電車は夢裡駅に止まっている。
夢と同じように、あの子が
乗ってきてくれないかな…と
淡い期待を寄せていると、
ドアが閉まる直前になって
誰かが乗ってきた。
蒼馬は驚き、まさか、と思いながら
乗ってきた人の足元を見た。
ローファーに紺のハイソックス。
女子高生だ。
恐る恐る顔を上げて見てみると、
そこには夢に出てきた彼女がいた。
何一つ違うところがない、同一人物だ。
蒼馬は思わず、
「緋心…ちゃん…?」と声をかけた。
彼女は
「え……何で私の名前を知ってるの!?
凄い!あなたは未来が視える人なの?
それとも魔法使い?」と、
無邪気な笑顔で質問攻めをしてきた。
蒼馬「いや…その…さっきまで寝ててさ。
夢を見たんだよ。その夢が今の状況と
全く同じで。君と話してたら目が覚めて。」
緋心「凄すぎ!予知夢ってやつかなあ?
ねえ、その話、詳しく聞きたい。
隣に座ってもいい?」
蒼馬「も、もちろん!隣、どうぞ!」
そう言った後、あの匂いを思い出して
ハッとした。
隣に座った緋心は、夢と同じように
顔を近付けてきた。
どうしよう…またあの匂いがしたら…
でも、あれは何の匂いなんだ…?と
怖くてぎゅっと目を閉じた。
すると、アプリコットのような
甘いシャンプーの香りが
鼻を通り抜けていった。
安心して目を開けると、
なかなかの至近距離で
緋心がこちらを見ていた。
そして、
笑いながら目の下を指差して
緋心「ふふふ、私と同じ場所に
泣きぼくろみーっけ。お揃いだね」
と、言った。
高校1年生。
思春期真っ只中の蒼馬には
刺激が強すぎて、身体中が火照っている。
蒼馬「あ、あの…緋心ちゃん。君は一体
どこの高校に通っているの?この駅は
今まで誰も乗車してこなかったし、
この辺では見ない制服を着ているからさ。」
緋心「私、今日から選華高校に転入するの。
親の仕事の都合で引越してきたんだ。
髪色は自由で校則は緩いみたいだし、
ラッキーって感じ!」
蒼馬「うちの高校じゃん!転校生か…!
この辺は本当に田舎で人口も少ないから
若い人に引越してきてもらうために
移住支援として色々取り組んでるからね。
校則を厳しくしてたら、まず来ないし。」
緋心「へーそうなんだー!人が少ない方が
すぐ顔を覚えられるし、仲良くなれそう。
何より山があるのが魅力的だよね。」
蒼馬「山?そうかな…自然が好きなの?
本当のTHE 山だから人気がなくてさ。
怖くてとても一人では行けないよ。」
緋心「それがいいんじゃん、誰も来ないから。」
蒼馬は緋心の言葉に疑問を覚え、
何がいいの?と言いかけた時に
降りる駅に着いてしまった。
「ここで降りるんだよね?一緒に行こ。」
緋心からのかわいい提案に、
さっきの違和感など
飛んでいってしまった。
駅を出ると、
緋心は蒼馬の1歩前を歩く。
緋心「蒼馬くんと同じ制服の人達に
ついて行けばいいんだもんね。」と、
楽しそうに言った。
同じく学校へと歩く生徒達は
緋心に釘付けだ。
学校に着き、緋心を職員室へ案内すると
蒼馬は教室へ向かった。
席に着くなり、友達が数人駆け寄って
きて、蒼馬に飛びついた。
桐原「なぁ蒼馬、誰だよあの可愛い子!
何で一緒に歩いてたんだよ!彼女か?」
香取「転校生?芸能人みたいだよな!」
噂を聞きつけた男子達が
次々とやってきて、蒼馬を囲んだ。
蒼馬「転校生だよ、電車で同じ車両に
乗ってきたんだよ。何もないよ。」
そう返事をすると、チャイムが鳴り
先生と共に緋心が教室に入ってきた。
先生が緋心を転校生だと紹介し、
緋心も一言
「内赤緋心です。皆さん、今日から
よろしくお願いします。」と言った。
緋心の席は窓際の一番後ろになった。
男子にチヤホヤされているのを見て
女子達が僻まないか心配していたが、
あまりの可愛さに、女子達も
嫉妬より憧れが勝ったようで、
すぐに打ち解けていた。
蒼馬は緋心が楽しそうに笑っている
姿を見て、安心した。
それから二人は、毎日
一緒に通学するようになった。
***
あっという間に月日が流れ、
緋心が転校してきてから
2ヶ月が経とうとしていた。
ある日の昼休み、
女子達の会話が聞こえてきた。
黒田「緋心たん、インナーの色が
前より落ちてきたんじゃない?」
緋心「そうなの。そろそろ染めなきゃ
いけないって思ってたんだ。」
白石「じゃあ私、染めるの手伝うよ!
ブリーチしてまた色入れてって…
大変だもんね!美容室は高いしさ。」
紺野「いつも美容室行ってるの?」
梶白「次は何色?緋心なら何色でも
似合っちゃうよね。」
緋心「いつも自分で染めてるんだー。
色はずっと赤だよ!赤が大好きだから!」
黒田「名前にも赤が入ってるしね。
緋心のイメージカラーでしょ。赤って
主人公って感じだし、ピッタリじゃん。」
白石「来週の土曜日、空いてるよ!」
緋心「ありがとー!じゃあお言葉に
甘えて…あ、やば。部屋掃除しなきゃ。」
蒼馬はこの会話を聞いて、
夢の中の緋心を思い出していた。
赤が好きなことも現実と同じだった。
自分は何故会ったこともない彼女の
夢を見て、何故彼女の名前や好きな色が
はっきりと夢に出てきたのか…
不思議でしょうがなかった。
あの凄まじい異臭といい、
赤を鮮血と例えるなんて…
思い返すとあの匂い、
血のような生臭さがあったような…
いやいや、あの天真爛漫な美少女に
そんな猟奇的な一面がある訳がない。
血の生臭さとは正反対だった
あのシャンプーの香りを、
必死に思い出そうと鼻をすする。
最初で最後の予知夢で、悪夢だった
蒼馬はそう自分に言い聞かせた。
まさかその夢が、現実になろうとは
思ってもいなかった。
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