月だけが知る真実
@ys194
短編小説 月だけが知る真実
彼らは、物心つく前から一緒だった。
特別な家に生まれたわけでもなく、ただ同じ場所で、同じ景色を見て、同じ時を刻んできた。
言葉にしなくても伝わることが多かった。
隣にいれば、それでよかった。
同じ相手を好きになったこともある。
二人並んで気持ちを伝えに行き、二人共見事にフラれた。
喧嘩をしたことも沢山あった。殴り合いになったことも、しかし気づけば何事もなかったように肩を並べて笑っていた。
喜びも、悔しさも、怒りも、分け合ってきた。
ある日、二人だけの秘密基地を作った。
人に知られない場所で、時間をかけて形にしたそれが完成した時、意味もなく手を打ち合わせ、飛び跳ねて全身で喜んだ。
その夜、激しい雨が降った。
眠ろうとしても、頭から離れなかった。
――あれは、大丈夫だろうか。
気づけば親にも黙って外に出ていた。
暗闇の中、そこに立っていたあいつの姿を見て、なぜだか可笑しくなり、声を立てて笑った。
濡れていることも、寒さも、どうでもよかった。
やがて雨は止み、雲の切れ間から月が顔を出した。
並んでそれを見上げ、言葉もなく帰路についた。
叱られたのも、泣いたのも、一緒だった。
このまま、同じ道を歩いていく。
疑う理由はなかった。
時代が、それを許さなかっただけだ。
戦争が始まり、一人はその場所を離れた。
家族と共に、生きるために。
別れの言葉は交わした。
だが、涙は不思議と出なかった。
もう一人は残った。
思い出と故郷を守るために。
いつか、あいつが戻ってこられるように。
道は分かたれた。
時間は二人を変えていった。
選ぶ言葉も、迷う理由も、少しずつ違っていく。
一人は土地から土地へと転々とした逃避行、一人は戦場で手を血に染めた。
幼かった彼等は、時代の荒波にのまれながら少しずつ大人になっていく。
もし、再び会えたとしても、かつての自分達ではないだろう。
遠い地で暮らす少年は家族から噂話を耳にする。
戦争は、激しさを増している。
その内容から目を背けたかったのか無意識に外に出る。
故郷とは違う光景、何気なく空を見上げる。
知らない土地の夜。
それでも、月は同じだった。
同じ頃、もう一人も空を見ていた。
命が軽く扱われる戦場で、それでも月は変わらずそこにあった。
互いが同じ時に月を見上げてることなど二人が知ることはない。
けれど、その瞬間、同じ言葉が胸に浮かんだ。
「あいつ、今なにしてるかな」
月は何も語らず、ただ静かに光っていた。
月だけが知る真実 @ys194
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