パンドラの娘たち

亜未田久志

プロローグ


 それは出会いから始まった。波打ち際で二人の少女が焚火をしていた。一人は高校生くらい、もう一人は小学生くらいだ。二人で焼き林檎を分け合っている。


杏那あんなおねえちゃん」

「どうした? 優衣ゆい

「誰か来るよ」

「うん?」


 砂をかき分ける足音がする。彼女はこちらに歩み寄ってくる。満月に照らされた彼女の髪はプラチナのように輝いていた。美しいと杏那は思った。自分の暗黒のような髪とは大違いだと。そして同時に強者だとも感じていた。敵かどうかは、まだわからない。


「誰だろうか」

「名乗るほどでもありません」

「そうか……では君のことはなんて呼べば?」

「今みたいに『君』でかまいせんよ」

「わかった。私は杏那、こっちの子は優衣だ」

「素敵な名前ですね」

「そうだろうか、ありふれた名前だと思うのだが」

「いいえ、その普遍性が素敵だと言っているのです」


 よくわからない。普遍性、においてそれに価値はなかった。特異性、それこそが求められる。この離島異界アクシオンでは。


「君は何しに此処に?」

「見回り、のようなものです」


 ふと、杏那は察することが出来た。彼女の立場を。同時に敵であると判断した。警戒心を強める。


「ああ、いえ。今日は非番なんです。そう怖がらないで」

「……緊急時は?」

「あはは痛いところを突きますね。そうですね緊急時は出動しなくてはなりませんね」

「では」

「ですが。今私にその気はありません。優衣ちゃんの事を想うなら今は矛を収めてください」

「……」


 そういわれては引き下がるしかない。杏那は警戒心を少しだけ和らげる。しかし敵意は向けたまま。彼女はにこりと笑うと。


「ええ、それで構いません。ところで聞きたいのですが、優衣ちゃんと杏那さんはどういう関係なんでしょう?」

「私は……この子の親を探している」

「親?」

「ああ」

「ふむ……嘘をついているわけではなさそうですね」


 優衣はさきほどから焼き林檎と格闘していて話に入ってこない。杏那はプラチナの君に向かい合う。


「用があるのは優衣の方か?」

「そういうわけでもないのですが。ただまあ、彼女はで預かった方がよいかと」

「いやだ。と言ったら?」

「それはあなたのエゴではないのですか」

「違う」

「断言するのですね」


 警戒心が再び跳ね上がる。杏那はいつでも戦闘が行えるように構える。プラチナの君はやれやれと肩をすくめる。


「非番だと言ったんですけどね」

「それでも、だ」

「ならばあなたがあの子のママにでもなったらどうです?」

「私が……?」


 無理だ。血に汚れた自分では、と杏那は自嘲する。しかしその様を見透かされる。


「自信が無いのなら手放しなさい」

「それだけ言いに来たのなら」

「ええ、帰りますよ。ですが」

「次に会ったら敵同士だ」

「ですね」

「やはり名前を聞かせて欲しい。決闘相手の名前を知らないのは無作法だ」

「無作法と来ましたか。分かりました。私はティア。離島異界管理機構「ブラフマー」に所属する戦士です」

「確かに」

「ええ」

「最後に頼みがある」

「なんでしょう?」

「一撃でいい。撃ちあいたい」

「……ええ、それくらいなら」


 ティアが指を鳴らすと空からコンテナが降って来る。鉄の箱が開くとそれはティアが纏う武装となる。

 対する杏那は手と手を合わせて祈るように握りしめる。すると手の中から光が漏れる。それは腕を侵食し、彼女の腕は剣になった。


「まるでカマキリですね」

「そっちは蜂みたいだ」

 

 一撃、剣と針が結び合う。――私たちは罪人だ。異能アカシアという罪を抱えている。

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パンドラの娘たち 亜未田久志 @NAMELESS_CARNIVAL

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