【短編】闇の奥Ⅱ――執着の証言――
だーまん
闇の奥Ⅱ――執着の証言――
「ストーカーしてます」
今日はそんな一言から始まった。
ここは匿名通話アプリの「サーバー」の一室。入った人間がボイスチャットで「人には言えない話」を垂れ流し、残りはそれを聞き、ついでに自分の話も落としていく。
俺、二宮真二は今日もこのサーバーで、誰かの闇を「証言」として聞いていた。ここで聞く話は、大体ハズレ。
四人で一部屋、ボイスチャットのみの室内。そこは、浮気、会社の愚痴、親の悪口、病みアピール。そういうくだらない話が大半。
そういう話だった場合は、全部頭の中のゴミ箱に放り込む。
だが、この話はなんとなく興味をそそられた。いや、話というよりはこの相手にだ。久々の『当たり』の予感がした。
「へぇ。相手は?」
自分でも軽いと思う声でそう聞くと、ヘッドセットの向こう側で、緊張をほぐすように少し息を吸う音がした。
「地下アイドルです」
若い、落ち着いた声だった。妙に抑えられている。
「不躾ですが、なんでストーカーなんてするんですか?」
「最初は自分がストーカーとは思いませんでした。でも、友人に言われて初めて気づいたんです。自分がやってることが、ストーカーかもって」
仕事帰りに、ライブに通って、家に帰ってからもSNSを追って、相手の配信やストーリーを時系列で追いかけて──。
ぼそぼそと語られるその日常は、正直、ここにいる連中からしたら「そこまでいけば、まぁストーカーかもね」と笑って済ませる範疇だろう。それでも、声の底に貼りついている罪悪感だけは、本物に聞こえた。
他の参加者が、軽い冗談を混ぜて茶々を入れる。俺はそのやり取りを聞きながら、モニターの端に目をやった。ストーカーのアイコンが、喋るたびに小さく点灯する。
俺は、マウスのカーソルをそいつに合わせて、個別メッセージのウィンドウを開く。キーボードを叩き、短く打ち込んだ。
『――詳しい話、興味ある。今度、直接会って話さない?』
数秒後に「既読」がつき、入力中の小さな丸が揺れた。
『いいですよ』
それだけ打たれた返事を見て、俺はヘッドセットを外した。
◇ ◇ ◇
数日後、俺は都営大江戸線に乗っていた。地下鉄車内の騒音を遮るように、イヤホンを耳に押し込む。暗い窓に、自分の顔と吊り革の列が二重に映る。帰宅ラッシュ前の車内は比較的すいていて、どこからともなく香る、行き過ぎた柔軟剤の嫌な匂いが俺の鼻をくすぐった。
上野御徒町で乗り換えて、上野駅の中央改札へ向かう。間を縫うような二月の冷たい風が吹き込む構内は、人の流れが絶えない。キャリーケースを引きずる外国人家族の観光客、スマホを見ながら歩くOL、同じような顔なのに、仕草で分かる明らかに日本人ではないアジア人。お菓子屋か、パン屋か、小麦と砂糖の焼けたうまそうな臭い。
俺は通話アプリを開き、LINEのアカウントを送った。しばらくするとスタンプが送られてくる。
「もしもし。どこにいるの?」
「あ、はい。ハードロックカフェの横です」
俺がそちらに視線を移すと、スマホを耳に押し当てて、周りをきょろきょろと見渡す一人を見つけた。黒いコートにキャップ姿。ストーカーは、見つかったという安堵と、初対面の不安が入り混じったような顔をしてた。
「こんばんは。はじめまして」
いつも通り俺は声をかけた。
「は、はじめまして……シンジさんですか」
実際に聞く声は、あのサーバーとどこか違うように聞こえる。
俺が頷くと、ストーカーは小さく頭を下げる。互いに自己紹介もしないまま、俺たちは駅の外へ出て、鶯谷方面に歩き出した。雑居ビルの隙間から、ラブホテルの看板がいくつも顔を出す。湿ったアスファルトに、赤やピンクのネオンが滲んでいる。
「女の子にストーカーされるって、一見羨ましそうだけど、ガチストーカーは怖そうだよね」
ホテルの部屋に入り、ベッドの端に腰かけた女に、俺はそう言ってやる。今日もテーブルの「渋沢」が、バカにするようににっこりと笑う。「お前も、女好きだろうが」と心の中で返した。
「自分でも、怖くなりました。客観的に言われたら、ああ。やばいなって……」
女は、怖いというより、申し訳なさそうに笑った。目元だけが少し赤い。
「で、追っかけてる男はいるのに、金で股開くんだ」
自分でも分かるくらい、声が少し低くなっていた。罪悪感を滲ませる女の表情を見ると、下半身にじわじわと血が集まっていくのが分かる。
「だって、色々とお金かかるんです」
「へぇ。推し活って言うだっけ?いくらくらいかかるの」
「……月に15万くらい」
「15万?!」
思わず笑いが漏れた。スマホ代、家賃、食費、その上に十五万。そりゃ体も売るだろう、と思う。
「メン地下ってずるいんです。グッズもお金かかるし、チェキなんて千五百円ですよ!ライブやイベントに行って顔を見せないと、相手にされなそうな気がするし……」
「で、追っかけてる男のために、他の男と寝ると」
女は黙って、うつむいた。濃いアイラインの下で、まつ毛が小さく震える。
俺はとっくに、女の話そのものには興味を失っていた。ただ、自分で自分を「最低」と認識している女の、その罪悪感だけに、体の奥がざわついて、気が付いたら女の口を塞いでいた。
ホテルを出ると、冷たい夜風が、火照った肌を撫でた。
鶯谷のホームで山手線を待ちながら、線路の向こうを見ると、昭和からありそうな色とりどりのホテルの看板が並んでいる。
横を見ると、駅の蛍光灯に照らされた、肩まで伸びる光の乗った綺麗な女の茶髪。さっきまでベッドで苦痛にとも快感ともつかないような表情を浮かべていた女の横顔は、明るいところでよく見るとまだ幼さを残していて、どこかの地下アイドルに居てもおかしくないような容姿だった。
終わった後の、罪悪感がなくなってしまったその表情は、遠くの他人に感じられて、俺はすっかり興味が無くなってしまった。
女の電車を待たずに、先に新宿方面の電車に乗り込む。振り返ることなく、耳にイヤホンを押し込む。帰宅ラッシュとまでは行かない混みあう山手線に揺られながら俺は家に帰った。
◇ ◇ ◇
仕事を終えて、無駄に高いコンビニの唐揚げ弁当を片手にアパートに帰る。
コートを椅子の背に投げ、コンビニの袋をテーブルに置くより先に、PCの電源を入れた。通話アプリを立ち上げ、いつものサーバーへログインする。上下に並ぶ部屋の一覧はスカスカだった。立っている部屋は、一つだけ。
何も考えずに入室すると、すでに話し声が聞こえる。
「友達がストーカーされてるんです」
ヘッドセット越しにそう聞こえてきた。
「友達がストーカーされてる?」
マイクのスイッチを入れながら、適当に聞き返す。
「はい。メン地下って知ってますか?」
その単語を聞いた時、推し活のために寝る女の顔が浮かぶ。メイクで作られた可愛さと、脱いだときの生活感。薄暗いホテルの部屋のベッドサイドに置かれていた女の暗いスマホの画面。行為の途中、何度も光っていたのを思い出す。
「ええ。単語だけ、聞いたことはあります」
「その、ライブ終わりとかにつけられてたり、家のポストに郵便ではない手紙が入れられてるそうなんです」
「手紙……ですか」
メンズ地下アイドルの、別の追っかけか。あるいは、同じ“推し活”同士の、泥沼の延長か。
「はい。宛名も住所も書いてなくて、ただ一行だけ」
相手は言いづらそうに、少し間を開けた。
「『俺だけを見ろ』って」
「俺だけを?」
妙な違和感が残った。
「……それで、助けてあげたいとか?」
「そうなんです。何かいい方法ないですかね。こんな話、人に話しても、『警察に行け』としか言われないだろうし」
「ああ。でも、警察も最近は事前に動くようになってきているとか聞いたことあるから、やっぱり警察じゃないですかね?」
俺がそう言うと、他の参加者が、「そうそう」とか「今の警察優しいらしいよ」とか、ニュースで聞きかじったようなことを言っている。適当にその場の空気を埋めながら、俺はモニターの端のアイコンを眺めていた。
サーバーを落としてベッドにもぐり込むと、枕元のスマホが震える。画面には、ストーカー女からのメッセージが点いていた。
『この間はありがとうございました。よければ、またお願いします』
◇ ◇ ◇
後日、女からまたメッセージが来た。
『また会えませんか?』
推し活も大変だ。アイドルの笑顔のために、今日もどこかで渋沢が溶けていく。
『25日以降ならいいよ』
そう返信する。俺もしょっちゅう女を買えるほど余裕はない。月末には、カードの支払いもやってくる。
次の日。鶯谷の前回と同じようなホテルの一室で、同じように渋沢が三人、テーブルの上に並んでこっちに笑いかける。
女は、コンビニで買ったスト缶にストローをさして、スマホをいじりながらぽつりと話し出した。
「最初は、ただの『ありがとう』って感じだったんですよ。こっちから何も言ってないのに、物販で『今日も仕事終わり? おつかれ』とか言われるようになって」
アイドルの声真似なのか、声色としゃべり方を変えて少しテンションが上がっている。
「最初にインスタで DM が来た時は、もう嬉しくて死ぬかと思いました。『今日もありがとう』とか、『仕事大変そうだね』とか、そういう“神対応”が優しくて」
嬉しくてスクショして、友達みんなに送りまくったこと。そのたびに、「ガチ恋じゃん」とからかわれたこと。男友達には「絶対ファン食いだよ」と止められたこと。
「でも、LINEになってから、だんだん変わってきて。『返信してくれないと不安になるんだけど』って」
女はスマホの画面を見つめたまま、笑うでも泣くでもない声で言った。
「この前、ライブ行かなかった日があって。お金もなかったし、推しからちょっと距離置いた方がいいかなって思って……そしたらその日の夜、LINEがきたんです。『今日来なかったでしょ?』って」
俺は前日のボイスチャットで聞いた『俺だけを見ろ』を思い出した。ポストの中に放り込まれた、宛名も住所もない紙切れと、メッセージアプリの画面の文字列が重なる。
「でも、そうやって言われると縛られてるみたいで嬉しくて」
女はストローをちゅうちゅうと吸いながら、満足そうに笑みを浮かべた。どちらが「本物のストーカー」なのか、もはや境界は曖昧だ。
ホテルを出て、鶯谷から電車に乗り、新宿に向かう途中で女から『ありがとうございました』とだけLINEが来た。俺は既読を付けずにそのままポケットにスマホを入れた。
数日後。
『都内に住む二十代の女性が刺され、病院に搬送されました。なお、命に別状はないようです――』
つけっぱなしのテレビが、無機質な声でそう告げた。ニュースのテロップに「二十代女性」「足立区」「帰宅途中」という文字が並ぶ。画面には、マンションのエントランスがモザイク付きで映っていた。街灯に照らされたタイル張りの階段の上に、ブルーシートと、物々しい黄色のテープ。
俺はマグカップを片手に、その画面をしばらく眺めた。名前は出ていない。それでも、胃のあたりに、コーヒーではないぬるいものが沈んでいく感覚があった。
思い出したかのように時計を見ると、仕事に向かう時間だった。俺はテレビを消して家を出た。
◇ ◇ ◇
「友達が刺されたんです」
俺は今日もアプリを開いていた。仕事から帰って、コンビニの飯も風呂も後回しにして、まずPCの前に座るのが癖になっている。
「刺された?」
「はい……」
「もしかして、その友達ってストーカーされてた?」
「え、ええ。あ、あの時の人ですか」
胸の奥が、少しだけざわつく。ヘッドセットから聞こえた声は、数日前に「友達がストーカーされてるんです」と話し始めたやつと同じ声だった。
「友達は大丈夫だったの?」
「はい……。でも、友達の親から、仕事帰りに刺されて。って聞いて……」
声が一瞬、上ずる。マイクの向こうで近づいた気配がして、すぐにまた引っ込む。
俺はアプリのウィンドウを開き、こいつにメッセージを送った。
『刺された子、僕も知り合いかもしれない。よければ、直接会ってお話しを聞きたいです』
『知り合いなんですか?!』
『一回だけですが、会ったことがあります。ストーカーされてるってこのアプリで相談されたんです』
俺たちは、ボイスチャットに居た他の参加者の“どうでもいい話”を聞きながら、日取りと場所を決めた。待ち合わせ場所は、大塚駅近くのカフェになった。
数日後、新宿駅から山手線に乗り換え、大塚駅に向かった。駅の改札を出て、右に向かう。俺は駅前の富士そばを曲がり、アプリ内からそいつにメッセージを送る。すると、すぐに返信がきた。
『階段の横のテーブルです。青色の髪なのですぐわかります』
中に入ると、店内は仕事帰りの客でほぼ満席だった。コーヒーの香りが漂う店内。レジ前の列には並ばず、そのまま奥の二人席へ向かう。そこに、青い色の髪のそいつが座っていた。
スマホを見ながら、マグカップのホットコーヒーを指先でいじっている。年齢は二十代前半くらいに見える。色白の生気の抜けたような顔色で、目の下にうっすらとクマがあった。
「こんばんは」
声をかけると、そいつは少し驚いたように顔を上げた。
「あ、はい。はじめまして」
現実で会うと、声の印象は少し違う。オンラインで聞いていたよりも、ずっと弱く、頼りない。向かいに腰を下ろすと、そいつは両手でカップを包み込んだまま、視線を落とした。
「その友達って、メン地下が好きな子で間違いないですよね」
そう切り出して、ダウンも脱がずに席に沈む。スマホを取り出し、例の女とのLINEのアイコンを画面に出してテーブルに置いた。一覧に表示される最後のメッセージは、未読のまま止まっている『ありがとうございました』だった。
「はい……。こ、この子で間違いありません」
そいつの声が、わずかに震えて、LINEのアイコンを見せてきた。俺が抱いた女と同じアイコン。同じ名前。
「前に、ストーカーされてるって言ってた友達?」
「そうです。メン地下の。……あのときは、助けたいって思ってたんですけど」
そこでそいつは言葉を飲み込んだ。マグカップの縁を、親指の腹で何度もなぞる。その指の動きを眺めながら、俺はスマホを伏せて画面を隠した。
そのあとに続いたのは、「友達の話」の延長に見えるようで、ところどころだけ温度が違っていた。バイトの帰りに、駅までの道をだらだら歩きながら、延々とメン地下の話を聞かされたこと。改札の前で立ち話が伸びて、何度も終電ぎりぎりになったこと。
誕生日には、メン地下からもらったというメッセージ画面のスクショを見せられて、「やばくない?」と何度も聞かれたこと。そのたびに、相づちの言葉だけ探していたこと。
その話をしている時、そいつは両手でマグカップを強く握りしめていた。白い指の関節が白く浮き上がり、今にも陶器を割ってしまいそうなくらいに。
そんな、他人から見ればどうでもいいやり取りの断片が、そいつの口から感情交じりにこぼれた。どれも、外から見れば取るに足らない思い出だ。ただ、そいつにとっては「一緒にいた時間」の証拠なんだろうと、ぼんやり考えて、頭の中の「どうでもいい話」のゴミ箱に放り込む。
連絡が返ってこないので、女の家の近くにある実家に行くと、女の親から仕事帰りに刺されたことを、聞かされたこと。とりあえず一命は取りとめたらしいこと。警察もまだはっきりしたことは言っていないこと。
そいつは、ところどころ言葉を探すみたいに間を空けながら、そのへんの事情を話した。自分を責めているのか、誰かを憎んでいるのか、どちらともつかない感情が、声の底に混ざっている。テーブルの上で、マグカップを包む指先が、わずかに震えていた。
「そうですか」
俺はそれだけ言って、テーブル脇の紙ナプキンを指で折り曲げた。三角にして、また開いて、どうでもいい折り目だけ増やしていく。
店を出ると、駅までの道は、夜の冷気で少しだけ澄んでいた。並んで歩きながら、ほとんど言葉は交わさなかった。
改札の前で足を止めると、そいつは小さく頭を下げた。何か礼を言ったようだったが、行きかう雑踏の音にかき消される。
「最後に会った時、彼女はどんな顔してました?」
そいつは、記憶を掘り返すように左上を見る。
「驚いた表情ですかね」
俺は、「そうですか。無事だといいですね」と、言って、改札をくぐる。最後まで、そいつの名前を聞かなかった。
◇ ◇ ◇
次の日の夜、つけっぱなしのテレビが、また同じ事件を取り上げていた。
『警視庁は今日、被害女性の友人だと名乗る二十代の男を、殺人未遂の疑いで逮捕しました』
アナウンサーの声の向こうで、画面が切り替わる。マンションの外観。モザイクのかかったエントランス。俺はリモコンを取って音量を下げた。
二日後の夜、ニュースはまた同じ事件を流していた。
『都内に住む二十代の女性が刺され、重傷を負った事件で──』
画面が切り替わる。警察署の前。玄関から数人の男が出てくるのを、カメラのフラッシュが白く照らした。
『警視庁はきょう、殺人未遂の疑いで逮捕した男を、検察に送検しました。◯◯署によりますと──』
画面が切り替わる。警察署の玄関から、数人の屈強な男たちに左右を固められ、引きずられるように出てくる男の姿。カメラのフラッシュが、うつむいた男のフードの隙間から覗く、鮮やかな青色の髪を白く照らし出した。
女の友達だ。
俺はリモコンを取って、音量を下げた。あの時、目の前で震えていた「そいつ」が、男であったことさえ、どうでもよかった。
あの時、俺が適当に言った『やっぱり警察じゃないですかね?』という言葉。もしあれが、こいつを追い詰めたのだとしたら? その一言が、こいつの背中を押したのかもしれない。
……まあ、考え過ぎか。それは無理がある。たとえ、そうだったとしても、知ったことじゃない。
テレビを消してPCの前に座ると、スマホが震えた。画面には、新着メッセージの通知が一番上に表示されている。送信者の名前を見て、俺は一瞬だけ眉を寄せた。
あの推し活女からのメッセージ。俺は、スレッドは開かずに画面を長押しした。
『刺されちゃいました……w』
『しばらく会えないけど、退院したらまた遊んでくださいね!お金なくなるし』
女にとって、自分の鮮血すら「パパ活のネタ」でしかないらしい。
「……めんどくさ。」
思わず口から出た言葉が、狭い部屋の中で浮いた。そのまま既読もつけずに、スワイプしてトーク履歴ごと削除した。画面から、女の名前が消える。
スマホをデスクに起き、真っ暗なモニターに映る自分の顔を嘲笑った。そして、いつも通りPCの電源を入れる。
匿名アプリを開き、「サーバー」にログインする。今日は、いくつかの部屋が立っていた。そのうちの一つに、何も考えずに入る。
しばらくすると、入室音が聞こえてきて、四人で満席になった。
「こんばんは。四人揃ったので、早速……あなたの『人には言えない話』聞かせてください」
俺はマイクをオンにし、いつも通り、「人には言えない話」を始める。
「最近、ストーカー被害に遭ってて……」
若い女の声が、聞こえてきた。マイクをオフにして、その「証言」を聞き続ける。また何かが、ゴミ箱からこぼれ落ちてくるのを待ちながら。
俺はマイクをオンにする。
「……へえ。刺されないように気をつけてくださいね」
【短編】闇の奥Ⅱ――執着の証言―― だーまん @DERMAN2025
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