駅前五分前、見知らない君と私服の魔法

佐々木ぽんず@初投稿

待ち合わせ

約束の五分前。駅前の噴水広場は、休日を楽しむ人々で溢れていた。

 僕は、着慣れないシャツの襟を何度も直し、スマホの画面を確認する。

(……変じゃないかな、この格好)

 学校以外で会うのは、今日が初めてだ。

 そんな不安を抱えながら顔を上げると、人混みの向こうから一人の女の子が歩いてくるのが見えた。

​ 淡いベージュのニットに、ふんわりとしたロングスカート。

 いつもは後ろで一つに結んでいる黒髪が、今日はゆるく巻かれて肩に流れている。

「颯太くん、お待たせ!」

​ 声をかけられるまで、それが陽菜だと気づかなかった。


 「陽菜、だよな?」

「そうだよ。何、その鳩が豆鉄砲食らったような顔。もしかして、変だったかな」

 陽菜は少し不安そうに、スカートの端を指先でいじった。

 変なわけがない。むしろ、いつもよりずっと大人っぽくて、綺麗すぎて、直視できない。

「いや、その。似合ってる。すごく」

「ホント? よかった。颯太くんも、今日の服かっこいいよ」

 陽菜がはにかむように笑う。

 制服を着ているときは「クラスメイト」の顔をしていたのに、今の彼女は、どこからどう見ても「一人の女の子」だった。

「じゃあ、行こっか。映画、楽しみだね」

​ 陽菜が僕の半歩前を歩き出す。

 歩くたびに、彼女の髪から知らないシャンプーの香りがして、秋の風に溶けていった。

「ねえ、颯太くん」

「ん?」

「今日だけは、クラスの陽菜じゃなくて、私個人のことだけ見ててね?」

 振り返った彼女の頬が、秋の日差しよりも赤く染まっている。


 僕はただ、小さく頷くことしかできなかった。

​ たった五分の待ち合わせ。

 それだけで、僕の「休日」はもう、最高のものになることが決まった。

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