第3話

夜明けまでずっと魔族を狩り尽くしてた。息切れ……はしてないが、流石に返り血を浴びてしまった。人の血と違って、生臭い。生ゴミが腐敗したみたいな血は、夏場に風呂に入らない時よりも不快な臭いがしている。


「このまま宿に戻るのは流石にアレだな」


 別に俺の印象はどうでもいい。今頃酒場での一件が知れ渡ってるだろう。寝取られ野郎扱いされるのかね。まーどうでもいいけど。


 幼馴染が彼奴に堕ちてる時点で、もう俺には失うものがない。ただ不潔野郎っていうのは不名誉だ。絶対に受け入れたくない。


 ひとっ風呂浴びたいところだが……そうなると宿に戻らないといけなくなる。酒場から出てもう時間が経ってる。汗で気持ち悪い。何処かで汚れを落としてさっぱりしたいところだが……


「水の音……」


 川のせせらぎらしき水音が聞こえてくる。辺りに人の気配もない。俺はラッキースケベとかそういうのには出会さないように周囲に注意を払ってるからな。


 ……そのせいで彼奴らが裏でやってたことにも気付けなかった。普段は別に気配を探査とかじゃなく、気を遣ってただけだからな。


「おお」


 俺は思わず声を漏らす。目に映る水は俺の姿がハッキリと見えるくらいには透き通っている、綺麗な水だ。喉も乾いてたし、丁度いいな。


 このまま飲むと普通なら腹を壊すが、俺は勇者だからまぁ肉体の強度は半端ない。その辺の武器だとまず無理。勇者を殺せるのは心臓が脳を破壊するかしかない。


 それくらい勇者の肉体は規格外だ。その分、不便も多いけど。


 軽装の鎧を脱ぎ捨て、水の中へと踏み入る。冷たい。それに気持ちいい。思わず唸り声が口から吐き出される。


 湯船に浸かるのとは違うが、悪くないな。掌で水を掬い、体に浴びせる。


 空を見上げると、太陽がもう顔を出し始めている。俺は勇者として日々魔族を殺して世界に平和を齎し、あっちは毎日毎日世界を光で照らし上げる。


 ……お互い、苦労するな。


「最近魔族の動きが活発化してるな」


 水浴びしながら昨夜のことについて思考を回す。俺が滞在していた町、酒場は別に何の変哲もない場所だ。金銀財宝も眠ってなければ、特殊な魔力的優位もない。魔族にとって何の利益にもならないはず。


 そこを狙った。彼奴らは間違いなく一斉にそこを目指していた。


 そもそも奴らに集団意識なんてない。命令された行動に対し、忠実に従属する。下級魔族はそういう連中だ。


 なら、指図した誰かが背後にいる。群れを狩り尽くしながら、抜けていった後にそんな奴がいなかったってことは、


「そいつは、ってことか」


 だから、奴らは同じ場所を目指していた。頭がいる方へと進軍していたのか。


 こりゃとっとと指揮官を特定しないと、また同じことが起きかねないな……ハァ。


 正直正義の心なんて俺にはない。ただ理不尽を強いる魔族人外に腹が立った。そんな俺が勇者に偶然選ばれた。力を得た。


 だから、殺す。高尚な理由なんてない。


「……彼奴らは今頃何してるんだろーな」


 目を瞑って思い浮かぶのは元勇者パーティのこと。幼馴染のサリア、僧侶のメルフ、盗賊のユウア。そして────踊り子のゲルガ。


 ……今更ながら男で踊り子って何だよ。あんな金髪に褐色肌の筋骨隆々な、いかにも色んな女に手を出してそうな奴がどんな踊りを披露してくれるんだよ。


 アレか、ベッドの上で華麗な腰捌きでも見せるってのか? ……は、笑えねー。


「アホくさ」


 そろそろあがるか。そう思い、水の中から出ようとした時だ。近くの物陰の草木が揺れたのを見逃さなかった。装備を置いていた場所だ、物盗りの可能性を当然疑う。


「誰だ」


 俺の質問に答えは返ってこない。水の中で石を拾い上げ、もう一度問いかける。


「次はない。誰だ、答えろ……答えなきゃ魔族と見做して攻撃する」


 俺の本気が伝わったのか、物陰からゆっくりと姿を現したのは女だった。


 陽光に映えるプラチナブロンドに宝石のように妖しい輝きを持つ赤の瞳。


 人でありながら────、エルフの美女だ。

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寝取られ勇者、ヒロイン居ない方が最強説 @GRMN

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